ユーザー企業・IT部門の弱体化が指摘されるようになって久しくなります。近年はシステムの構築・運用のみならず、企画までをも一括してITサービス企業にアウトソーシングするケースが増えており、一部の企業には、「このままではIT戦略を実現できる人材が育たなくなる」という危機感も芽生え始めてきました。また、人手不足、および世界的な景気後退の影響で様々なコスト削減のプレッシャーも高まっています。その上にDX推進による新たな考え方の導入にも迫られています。 IT部門のあるべき姿を見据えた人材育成を行うためには、どういった点に考慮すべきであるかを明らかにした上で、スキル標準の活用法を提示したいと思います。
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スキル標準の活用で得られるメリット |
これまで企業が推進してきた、自社IT部門のあるべき姿の定義や人材育成のアプローチは、すべて各社独自の取り組みでした。したがって、そのために必要なコストや時間も決して小さくありませんでした。 また、仮に自社の“独自基準”を作り、IT人材育成やプロジェクトのアサインに利用することが可能な体制を整えたとしても、他部門からの理解を得られないまま、長続きせずに破綻してしまうケースも少なくありませんでした。
つまり、IT部門における人材育成という取り組みは、これまで、膨大なコストをかけた割には、価値のある仕組みがほとんど何も残らないままに終わっていたのです。
スキル標準は、そうした問題を解決するために生まれたものです。IT部門に必要なスキル・タスクなどを一定のレベルで規定・提供するためのものであり、CIOや責任者にとって大きな意義を持ちます。
スキル標準を適切に活用することによって、独自の手法では避けられない非効率さが解消されるだけでなく、これまで実現するのが困難とされた、次のような戦略的アプローチを実現することも可能になるのです。
●組織力の強化:組織が持つべき機能・役割の可視化、および組織設計での活用。インソースとアウトソースの区分を明確にし、総合力を引き上げるための活用 ●個人の能力の強化:業務機能を把握し、生産性/業務品質向上に貢献する人材育成のフレームワークとしての活用 ●効果的な戦略投資の実施:投資の優先順位の明確化や、投資効果を把握するための活用。システム発注時のRFP策定やITベンダーからの提案を評価するための活用 ●IT部門の実力(強み/弱み)の可視化:実行力の観点からの評価に基づく人材投資効果の最大化に向けた活用 ●人員配置の最適化:スタッフの具体的な能力に基づいた人員配置を実現し、事業の効率化を図るための活用 ●キャリアパスの明確化:個々人が目標とするキャリア実現のために必要なスキル開発項目の明確化や、キャリア変更を図る際の参照モデルとしての活用 ●育成計画の立案:自社の目標と現状に即してスタッフのスキルや改善点を把握し、育成計画立案の指標とするための活用 ●人材投資効果およびビジネス目標への貢献度の検証:仕組みの策定に加えて、PDCAサイクルに基づく継続的な運用・改善に向けた活用 |
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IT人材育成に欠かせない責任者のリーダーシップ |
IT人材育成というテーマに取り組むにあたっては、「IT部門のあるべき姿(To Be)」を描くことが欠かせませんが、問題はその描き方です。 そこでは、いきなり人材像をイメージして必要な「ITスキル」に着目するのではなく、まずは自社のIT部門に必要だと思われる「ファンクション(機能)」を構成してみるというアプローチが求められます。 これは、自社のビジネスを支えるためにIT部門が持つべき組織機能を定義し、その機能を回していくために必要な要素として「スキル」を位置づけるという方法であり、ITSS、UISS、iCDなど主要なスキル標準の活用アプローチにおいても採用されています。
To Beをこのようにまとめておけば、「IT部門としてどういった実行力が必要なのか」についての関係者のコンセンサスが得やすくなるし、組織機能の次の段階である「役割・人材像」を考えたときに、その責任範囲を機能レベルで明確化することも可能になります。 また、これは、アウトソーシングすべきではないコア機能とそうすべき非コア機能の区分や、情報システム子会社との役割分担の明確化といったような、業務の切り分けを考える際にも活用できます。
このような、ファンクションを切り口としたTo Beの策定は、情報システムにかかわる方であれば、もともと得意とするところであるはずです。 しかも、CIOや責任者がリーダーシップを執り社員が主体的に動きやすい環境を創れば、直ちに実行に移すことができます。スキル標準は、それを支援する強力なツールとなるのです。 |
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登録:2022-03-11 21:21:00
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