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コラム
第64話:UISS (情報システムユーザースキル標準)の全貌が明らかに!
 4月下旬に、経済産業省より「情報システムユーザースキル標準(UISS:Users' Information Sysytems Skill Standards)」が発表され、現在パブリックコメント募集中です。先行するITスキル標準の考え方や構成などを考慮に入れて策定されています。私にも召集がかかり、策定委員会のオブザーバやワーキンググループの委員として参加しており、今回はその概要をお伝えします。
UISS策定の背景
 UISS策定の背景として、ユーザ企業の情報システム活用の現場における課題が挙げられています。
 (以下UISSの概要説明からの抜粋)
@これからのIT投資においては、「業務プロセスの可視化」と「情報システムの再構築」を、最も重視している。
 (業務そのものと、それに伴うシステムの見直しの必要)
A大手企業になればなるほど、フル・アウトソーシング(=空洞化)が進んでいる。
 (質量ともにIS機能が低下しつつあるIS推進体制)
BCIO、または、その機能が欠如している。
 (ITガバナンス機能の不在)
C実現したいシステム案件の仕様を明確にできぬまま着手、発注している。
 (要件定義能力の低下)
D実現すべきシステム案件コストを自ら積算できないため、システム予算を、ベンダからの見積書を転用して作成している。
 (分かりやすいシステムコストのメジャメント不足)
EITを活用した業務改革の推進を求めている。
 (浸透しないIS機能整備と組織力向上を結び付ける意識)

 これらの課題が掲げられる原因は、ビジネス環境の変化や情報技術の進展に、企業として継続的に対応できるための「IS機能」が体系立って整理されておらず、企業内で、「経営層」、「IS部門」、「IS活用部門」それぞれの立場のISに関わる役割が明確でなかったことに起因する部分が大きい。
 同時に、コスト明確化の旗印のもと、IS機能の多くを、情報子会社を含むアウトソーサに切り出す傾向が強くなり、システムの発注者、活用者としての意識が薄れ、本来、自らが担うべく役割すらシステムベンダに依存する様になったことなどが大きな要因と考えられる。

UISSの目的
 さらに、UISS策定の目的として、以下が挙げられています。
 (UISSの概要説明からの抜粋)
 UISS策定の目的は、各社の「IS機能」の現状から、向かうべき姿に変革させる上で、何が不足しており、そのためにどうするべきかを、情報システムの観点から、明確に表現できる指標を提示することである。
 今回の成果は、各企業の置かれた経営状況や情報化推進体制に応じて、また、関与する推進者の立場によって、次の様な目的を実現し得ると考えている。
@企業全体として、IS機能の重複や抜けのない効率的な情報化推進体制の実現
 → 内部統制の体制整備に向けたIS機能の見える化と体系化によるITガバナンスの徹底
AISに関与する人材についてのポートフォリオの把握と将来像の設定
 → 経営者自身、および、経営層に報告をする立場の方々の視点から、ISを活用した機動力の現状と目標確認
Bアウトソースする際の(システムベンダへの発注時における)役割分担の整合性確保と効率化
 → IS機能一覧から、発注する機能を抽出してまとめられることで、容易な要件の仕様化を実現
CIS部門要員の役割・キャリアパスの理解という観点から、組織の生産性向上とISに関与する個人のモチベーションアップ
 → 組織力向上に向けた、IS関与人材の重要性確認と、育成計画、調達計画の立案
UISSとは
 UISSの定義は次の3点です。
@情報システムが、企業活動に直接的な影響を及ぼす重要インフラとなったことを踏まえ、企業における情報システム機能を経営的観点から体系的に整理したもの
A従来、可視化されていなかった情報システム機能を、業務レベルで洗い出し、その業務に求められるスキル、知識を一覧化したもの
Bユーザ企業固有の業務である調達、評価、利活用、に関する職務とその能力も定義したもの

 また、その構造は以下の7点で成り立っています。
@タスクフレームワーク
 企業に存在する業務機能を、図式化して分かり易く表現し、その中で、今回策定するISスキル標準の対象範囲であるIS機能を定義したもの
Aタスク概要
 ISスキル標準の策定範囲のIS機能を分類し、それぞれの業務概要を定義したもの
B機能・役割定義
 タスク概要で定義した大括りのタスクを分割・詳細化して洗い出し、それらを実現するためのスキル、知識を対応付けて一覧化したもの
Cレベル設定の考え方
 各業務の遂行能力(業務経験とスキル)としてのレベルの設定の方法を定義したもの
D人材像とタスクの関連
 一個人が、企業に存在するIS機能を分かり易く把握できるように、ある程度の意味をもったタスクの固まりとその遂行との関係を表現したもの
E人材像定義
 上記Dで設定した各人材像のミッションと担当業務を定義したもの
Fキャリアフレームワーク
 上記C〜Eを組み合わせ、人材像ごとのレベルを定義したもの

 この内容は、スキルを求めるところから入るのではなく、あるべき機能を定義するところから入るというものです。UISSとしてあるべき姿の機能定義をフルセットで用意されており、そこからUISSを活用する各企業の戦略やビジネスモデルを基に、必要なものを選択してくるという方式です。選択した機能に必要なスキル定義がセットになっているので、何もしなくてもスキルセットの基本形ができているという優れたものです。
 これは、私がITSS導入手順として説明している流れと同様のトップダウンでの策定手法です。
 具体的なスキル定義は、Bの機能・役割定義に含まれますが、現在のところ展開するまでに至っていません。次のフェーズでの定義となる見込みです。したがって具体的に企業で活用するには、スキル定義のリリースを待つ必要があります。
 また、コンピテンシに関しては除外されることになっています。理由は、コンピテンシは能力を語る上では、非常に重要なファクタであり、人材育成を考える場合に切り離すことができないものではありますが、企業のあり方によって千差万別であり、企業文化そのものとも言えるため、標準には馴染みにくいとの判断です。
UISSの必要性
 策定委員会やワーキンググループに参画して強く感じたのは、ITサービス提供側よりかなり問題意識と危機感を持たれているということです。
私なりにその理由を列挙してみました。

・経営者からIT部門に「IT戦略」の提案や実施を強く求められ始めた。
・要求に応えて行くには、以下の大きな問題を解決しなければならない。
−これまでの経緯でITベンダへのアウトソースを進めており、スキルを持つ人材が内部に少ない。
−RFPまでベンダにお任せで、さらに提案された金額を予算化しているケースもある。
−IT部門のメンバの多くは、IT部門に配属されることを期待していなかった。したがって、今の仕事を自分の将来に 結びつけるのが難しい。

 このような問題を抱えており、如何に経営戦略にあった「IT戦略」を立案・実施して行くか、という経営目標を見据えるということを命題として、真剣に捉えているということだと思います。また一方で、IT部門の皆さんのモチベーションをどのように上げ、パフォーマンスを最大限にして行くか、それぞれ個人の将来計画にどう結びつけて行くか、ということも重要な課題だと認識されています。上司部下のコミュニケーションに、何をどのように使用するかも現実的で大切な課題です。

今後の展開
 ITSSは、戦略を持った企業が利用すると絶大な効果を発揮する、というのは経済産業省やIPAが発信し続けてきた重要なメッセージです。それを聞き逃し、または理解できず、何も考えずに人事制度に取り入れたり、取りあえず診断だけを実施してみたりと、様々なメディアで取り上げられているような失敗例が多いのは、殆どITサービス提供側です。私もその中に居ながら必死で訴えてきたつもりですが、安易な方向に流れる傾向は未だに変わっていません。なんとも情けなく思っています。
 しかし、一方ではおかしな事例ではなく、ファイザー社、サイバード社、リクルート社などユーザ企業のいい事例が、注目を浴びています。このようなユーザ企業の考えや真摯な取り組み姿勢を目の当たりにして、経済産業省が打ち出したUISSは、正しい策だと確信しています。3年以上かかって自分のものにできないITサービス提供者を尻目に、ユーザ企業が自分のものにして、人材育成の効率化と体制強化を進めて行くのは、間違いないでしょう。
 人ごとではありません。これでいくら儲かるかでもありません。社員数の多い少ないも関係ありません。企業が繁栄するため、社員のモチベーションをアップさせて、パフォーマンスを上げるための取り組みを、避けて通れるわけがありません。
▲▽ 関連サイト ▲▽
第93話:UISSについての正しい理解
第97話:UISS、ITSSの入りやすい利活用法 その1
登録:2011-01-30 15:54:51
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