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コラム
第62話:ITSS V2イベントへの参加
 日経BPのITSS V2のイベント2つに講師やパネラーとして参加しました。4月21日の日経ソリューションビジネス主催のITSS V2イベントでの講師と、4月26日の日経BP・iSRFセミナーでのパネルディスカッションへの参加です。この2つのイベントを通じての現在のITSS浸透状況を浮き彫りにしてみます。
4月21日・日経ソリューションビジネスのイベント
 約80名を集めたこのセミナープログラムは、次のような内容でした。

◆セミナー1 13:00〜14:00
人材育成の新たなフレームワークとなる「ITSS 2.0」の詳細
講師:独立行政法人 情報処理推進機構 ITスキル標準センター 企画グループ 主幹 平山 利幸 氏
◆セミナー2 14:00〜15:00
標準のフレームワークを活用した人材育成策の実践と課題
講師:ITSSユーザー協会 専務理事
   スキルスタンダード研究所 代表取締役 高橋 秀典
◆セミナー3 15:10〜16:10
戦略的な人材育成を実現するHCMの実際
講師:日立システムアンドサービス 人財開発部長 石川 拓夫 氏

 セミナー1は、13日にITSSユーザー協会で実施した2時間講演の短縮版で、講師も同じくIPAの平山氏でした。1時間では旧バージョンからITSS V2への変更方針や内容の説明に時間を取られてしまい、受講者に多くの情報やコンセプトをインプットするのは難しいという実感です。
 セミナー3は、ITSSユーザー協会員でもある日立SASの石川氏です。石川氏は、行動を共にすることも多い同志で、私とはかなり意見の一致する強力な味方です。
講演中の感触、講演後の反応
 ITSS V2自体の詳細についてはセミナー1で十分なので、私の講演内容は@導入済みの企業や検討中企業の実態、そしてA好事例2件、最後にB導入の考え方と手順についてお話させてもらいました。
 @については、配布資料には殆ど詳細は載せずに、画面と口頭で詳細をお話ししました。聞いておられる皆さんの表情、また講演後に頂いた何通かのメールに、全てが現れました。皆さん試行錯誤して困っている、始めたいのだけれど方法が分からないから、セミナーに足を運んでいるのです。世の中がどうなっているのか知りたいのです。ITSSを導入するなら遠回りしたくないのです。その気持ちがひしひしと伝わってきました。
 Aはおなじみですが、ファイザー社とサイバード社を具体的に取上げました。両社ともトップダウンでの推進をされているITSS導入の手本にできる企業です。
 Bは、経営戦略から入るとはどういうことか、V2で参照モデルとはっきり定義されましたが、それをどのように活用するのか、という手順を具体的に説明しました。
 IPA主催IPAXが東京ビッグサイトで開催されます。光栄なことに私がIPA賞を受賞することになり、17日12:00から記念のプレゼンテーションをすることになっています。その中で、この内容をかいつまんでお話しします。お時間のある方は是非お越し下さい。
(◎最下部にURLあり)
4月26日・日経BP iSRFセミナーでのパネルディスカッション
 約350名を集めたこのイベントは、聴講者の方々から事前にお寄せいただいた疑問、質問に対し、ITSSや人材育成制度の専門家がパネルディスカッションの形式で回答するというものでした。パネラーは以下のメンバです。

【Q&A パネルディスカッション】
人材育成の悩みと疑問に答える
 ITスキル標準センター長 小川 健司氏
 ITSSユーザー協会 専務理事
 スキルスタンダード研究所 代表取締役 高橋 秀典
 ラーニング・アーキテクチャ研究所 代表取締役 宮沢 修二氏
 モデレータ:日経コンピュータ編集長 田口 潤氏

 まず、事前に送られてきた質問内容にガッカリしました。ITスキル研究フォーラムという名の下に、ITSSに興味のある方々が集まっていてまだこの状態でしかない、という現実に対してです。
 先頭に30分ほどIPA小川センター長によるITSS V2の説明が急遽繰り入れられたので、実質1時間の内容でしたが、パネルディスカッションというより、単に質問に答えるという様相になってしまったのは、すこし残念です。
取上げられた質問
 当日取上げられた質問で、主要なものを以下に抜き出しました。

●人材育成・教育一般
@40人程度のソフトハウスです。客先常駐主体の中ではITSSや資格への意識改革が困難で、技術者が他人事のように思っている感があります。当社のような会社では、零細ソフトハウスでの導入・評価方法など良い方法があればと思い悩んでいます。
Aヒューマンスキルの可視化は本当に可能なのか? 採用に関しても困っている。
良い方策はないか?金銭的待遇アップが実施しにくい小企業の場合、他にどういった
代替案で、評価することができるか?
●スキルの定量評価にまつわる問題
B将来、技術的な面だけではなく、人間的な面(リーダーシップ、問題解決能力、協調性、勤勉さ、体力、精神力など)といったことも診断できないでしょうか?仕事を進める上で技術とともに非常に重要な点であると思っています。
C事業戦略・計画と人材育成を同期化させる仕組み(職種(役割)の括り方、求めるスキルなど含む)は、各企業・事業における戦略性が反映されるべきであると考えると、各社各様となると思われるが、標準化を推進する立場からみて、この点についてどのようなご意見、ご提言をお持ちか伺いたい。
D企業内の人材育成は、企業の戦略と本人の意向をマッチングさせてキャリアプランを設計する必要があると思っています。しかしながら、各人のキャリアプランをどのように設定したらよいか、分からない人が大半だと思います。ITSSに準拠したツール群も整備されてきましたが、ツールのみで利用者が納得するキャリアプランの設計ができるのでしょうか。また、ツールのみでプランニングが困難な場合は、どのような検討を行えばよいのでしょうか。
Eスキルを「ものさし」で計ることのメリットについては理解できます。ところで、逆にデメリットとなるところ、もしくは気を付けなければいけないところなど はございますでしょうか? 私が考えるデメリット(危惧する点)としては、以下のものがあります。
−キャリアビジョンやスキルの単一化により多様性が失われ、斬新なアイデアを生み出す土壌が育たない。
−「ものさし」で計られる事への嫌悪感によるモチベーションの低下
F評価に残る「あいまい性」「不明度」があるにもかかわらず、普遍的評価をしているかのように運用されることは危険である。これを、避けるために運用上どのような工夫をすればよいか。
GITスキル標準や手法は、医薬品などの臨床試験に相当するものを十分に行われないまま現場に持ち込まれているようにおもわれる。現場IT業務との適合性は、誰がどうやって検証&保証するのか。
H昨今コミュニケーション・ネゴシエーションスキルといった部分のニーズも高まっています。このあたりをどう可視化・評価していくのか、具体的事例をもとに聞ければと思っています。(ツールを使って・・・という評価の部分ではなく、現状把握等でどのように定量的な測定項目を設定していったのか等)
●スキル診断ツールに関する疑問
Iスキル診断システムが各社から提供されていますが、評価方法が統一されていないと思われます。スキル評価について、今後どのような対策が出てくるとお考えでしょうか。
Jエンジニアのスキルレベルを診断できるツールの信頼度はどのくらいでしょうか?参考にする程度にとどめるのが良いのか、それとも、診断レベルによった判断をするのが良いのか?
誰が何の目的で導入するのか?
 この質問群を見ると分かりますが、一番欠落しているのと思えるのは、何の目的で導入するのか、という点です。

評価したいためでは無いでしょう。
診断ツールを実施することでは無いでしょう。
企業間比較をしたいためでは無いでしょう。

 これらは皆手段です。手段から入るのは簡単ですが、今まで散々人の件に関して苦労してきたはずなのに、そんなことで問題が解決できないことは明白でしょう。
人材に関する件では、手段を目的にしてしまうと恐ろしいことが起きる可能性があります。
 企業として必要なのは、ビジネス目標達成のために貢献する人材です。そのために育成や調達に投資していくのです。また、目標達成のためには、エンジニアのパフォーマンスを最大限に持っていくため、モチベーションを上げることができる環境、夢を持つことができる環境をつくり、魅力ある企業にしていく必要があります。
 また一方では、企業間調達のために活用するというのも、効果的だと考えます。しかしながら、基本的にビジネス目標達成に貢献する人材を育成していくことと、企業間調達は別物です。良く考えれば歴然としたことだとお分かりになると思います。これらを同一視して混乱していませんか?
 ITSS V2の位置づけを再度明確にしておきます。

・ITSS V2は参照モデルである。
・ITSS V2は仕事をするためのスキルをスキル熟達度として定義してある。
 ただし、共通化しにくい業界、業務、要素技術などは定義されていない。
・仕事を実行し、成果を上げるためのヒューマンスキル、コンピテンシーは、定義対象から除かれている。
 各企業で独自に必要なのものも多くあり、共通化しにくい。
・仕事をした結果を評価するための指標として達成度指標を定義してある。
 スキルではない。あくまで成果を評価するための指標である。

 仕事をするために不足している業界・業務・要素技術などのスキル定義は、各企業で追加していくことが必要です。また、それら仕事をするための前提スキルは明確になっても、それを使って実行する能力が無いと成果を出せません。その能力を一般的にはコンピテンシーやヒューマンスキルと呼んでいます。その能力はITSS V2では定義されていないので、追加していく必要があります。
 ITSS V2から何を参照してきて使うか、何が不足しているので追加するかは企業ごとのタスクから、To-Beファンクションを導き出さないと明確にはできません。また、To-Beを求めていくには、経営戦略やIT戦略から必要な人材に対する要求分析を実施しないと導き出せません。
 このように進めていくと、自社の目標人材モデルを定義でき、目標と現状のギャップから的確な育成プランも策定でき、プラン実施後の投資効果の評価も可能です。
 これら一連は、社員にも明確に説明できる材料になります。説明できないものを継続していくことは不可能です。人材育成は継続していく必要があります。

 ◎この全体概要をドキュメントコーナーに、「導入アプローチ概要」として1枚ものでアップしました。是非ご覧下さい。(以下にURL)
▲▽ 関連サイト ▲▽
9月20日出版「ITSS V2の分かる本」
導入アプローチ概要
登録:2011-01-30 15:45:47
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