ITSSを企業に導入すれば人材に関する問題は解決すると、今だに信じている経営者の方もいます。過去どれだけ人材の問題で苦労してきたかを考えると、すぐにそんなはずはないと気づくはずですが、このように何もせずに過大な期待をしているのは大きな間違いです。
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企業に必要な人材像について |
以前のコラムで何度もお話していますが、再度徹底したいと思います。 ビジネス目標達成に貢献する人材を育成するという前提に立てば、次のような考えになります。
・ITSSで用意されているスキル熟達度や達成度指標の定義は、辞書として使用する。 ・企業で必要なのは人材像であって辞書そのものではない。 ・人材像は企業によってそれぞれ異なる。なぜなら提供しているサービス内容、事業形態などビジネスモデルが異なるからである。同じコンサルタントという呼び名であっても、仕事をしている際の責任範囲や深さ、必要なスキルは各社で異なる。 ・ITSSの定義には、業界知識経験、業務知識経験、要素技術、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルなどが入っていない。企業に必要な人材像に、これらが入っていないと成り立たない場合が多い。
少しITSSについて勉強された方々ですと、この内容はその通りだと思うはずです。 IPA発行「経営者向け概説書」では、この企業ごとの人材像のことを、「目標人材モデル」と呼んでいます。 |
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ITSS導入の考え方 |
先の「目標人材モデル」についての考え方を元に、ITSSの導入方法で解決しなければいけないのは、以下の内容です。
・目標人材モデルの策定時、ITSSの定義の中で何を使うか。 ・目標人材モデルの策定時、ITSSの定義に無くて追加が必要なものは何か。 ・以上のことを第3者(経営者や現場責任者、エンジニア)に論理的説明ができるか。 ・人材育成は継続が必要であり、責任者を含めて継続運用のデザインはできるか。
これらを解決するには、「スキルセット作り」から入るとうまくいきません。何故このスキルが必要なのかを説明することが困難だからです。評価項目の羅列になってしまいます。多くの失敗例は、まさにこのように必要なスキルを定義するところから入っています。作成したスキル定義の変更も、何故なのかを説明することが難しくなります。ましてや運用を任されただけの方が、うまくメンテナンスできるわけが無く、陳腐化してしまうことになります。
IPA発行「経営者向け概説書」の冒頭に、導入手順のフローが載っていますが、上記のことを解決するには、このトップダウンの手法で導入を進める以外にありません。 |
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ITSS導入手法の概略 |
手元に「経営者向け概説書」をお持ちの方は、目次の次のページXを開いて「ITSS導入の簡単図解」を見てください。 最初の箱の「要求モデリング」と、次の箱の「ファンクションモデリング」は、システム構築の上流で言う「要求分析」と「機能分析」に当たります。 システム構築での「要求分析」は、ユーザーのニーズをまとめ上げ要件定義をするわけですが、ITSS導入の場合は経営戦略、たとえば3ヵ年プランを元に3年後に必要な人材(目標人材)に対するリクワイメントをまとめるわけです。 次の「機能分析」については、システム構築の場合そのシステムに必要な機能を整理してまとめて行きます。その機能をもとにDFD(データフローダイアグラム)などを書いて行き、ブレークダウンして行くとプログラムやモジュールに落ちていくことになります。ITSS導入の場合は、3カ年経営計画を元にしたなら、3年後に目標を実現するために企業として必要な機能を定義して行くことになります。 ここまでは一切スキルについては出てきません。また、システム構築はエンジニアの得意分野であり、この方法ですとエンジニアがレビューに入っていくことが十分可能です。「ITスキル」は現場のものであり、人事や人材開発、ましてや外部のコンサルが作ったものを使うのではなくて、現場自らが作成に参加していくことに価値があります。「ITスキル」は、間違いなく現場のエンジニア、自分たちのものなのです。レビューの中で手法や内容を詳しく説明しなくても、「3年後にそのビジネスを目指すなら、機能をもっとブレークダウンして詳細化しておいたほうが良い」など、積極的な意見が普通に出てきます。 そして、3年後の機能モデル(To-Beファンクションモデル)が固まれば、次にその機能を実行して行くにはどういうスキルが必要か、という観点でスキルセットを構築して行きます。それが3番目の箱です。この時点でITSSの定義を使えば非常に効率的なわけです。また、ITSSの定義の中で自社に必要の無いものも明確になります。逆に不足していて追加しなければならないものも、はっきりと見えてきます。 このように経営戦略を基にした必要機能からスキルを確定して行くと、誰に対しても説明が可能になります。また、ビジネスモデルの変更などで機能が変化したから、このスキルが不要になり、新たにこのスキルを追加する、ということも論理的に説明できます。メンテナンスも機能を元に実施して行く仕組みを作ると、引き継いで行くことも容易になります。 さらに、企業の視点でビジネスモデルに合った職種や、必要があれば専門分野、及び人事制度とのリンクなど将来を見据えたレベルを定義し、確定したスキルセットを職種ごとにレベル観を付けて振り分けて行きます。これで、「目標人材モデル」を策定できたことになります。 この中でスキル棚卸を実施し現状把握をすると、目標とのギャップが明確になります。その内容を元に育成プランを策定すれば、経営戦略に沿った形での人材育成ができ、優先順位も明らかになります。また、実施効果の測定も可能になり、人材戦略の改善にも役立ちます。 「要求分析」や「機能分析」を実施する際の手法は、様々なものが存在します。目的を達することができるなら、使いやすいものを使えばいいですし、浅くやる、深くする、ありものでまかなうなどOKですが、ITSS導入を進める上で「経営戦略から入る」ということでしたら、この順序は守る必要があります。ガチガチに規定するものではありませんが、何故そうなるのかはシステム構築やITサービスを経験された方なら、言わずもがなのはずです。 |
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登録:2011-01-30 15:43:48
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