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コラム
第51話:「ITスキル標準」ITSS企業活用状況 〜インタビューによる調査 その5
 今回のインタビューレポートは、導入作業中の企業にフォーカスを当てます。今回インタビューした企業のかなりの全体観を表わす内容になります。
中堅ITサービス企業「C」社の場合
 C社は、ITサービスと言えど客先に常駐するパターンが主流を占めています。これは、完全な派遣という形ではなく、アウトソーシングやシステム開発・保守などの一環として、席を客先に設けているという位置づけです。このことにより、そういうエンジニア達には、お決まりの帰属意識の希薄化、危機感の欠如という問題がついて回ります。帰社するのが1ヶ月に1度程度、場合によっては半年も会社に「来ない」という状況もあるようです。また、営業面からは、契約が終了した場合できるだけ早く次の仕事をアサインして、なるべく間が開かないようにするというのが鉄則です。そのような中でキャリアパスなど存在するはずがない、というのが当たり前のような感覚になっています。人材育成を担当している方にとっては、客先での仕事に必要な教育を簡単な方法でかつ最低限の時間で提供して行く必要に迫られることになります。
 このような状況で、世の中が「ITスキル標準」に動きつつあることに対して、何か考えなければならないということになり、調査を始めたということでした。
 しかし、情報が少なく資料も限定されていて容易に理解できないことが分かりましたが、間接部門であり外部に支援を求めるわけには行きません。日ごろからこのような類のことに対して経営者の方は、「ITサービスを提供しているのだから全て内部でできないとおかしい」と言われているそうで、とても申請を上げれるような環境に無いそうです。そこで検討した結果、最初に手を付けたのが診断ツールだったということです。よくある「とりあえず現状把握」パターンです。それもASPなどではなくソフトウェア自体を購入されて内部で運用することにしました。(何も変えずにそのまま)
 全メンバに対する1度目のスキルチェックが終わり、皆レベルが低い、ということで経営者の方にとても見せることができないと担当の方は嘆かれていました。それに対して現場は、「自分の仕事内容と職種が合わない」、「どの職種を選択すればいいのか」、「一体何のためにやっているのか」などという声が相次いだということです。
 担当の方は困り果てています。このまま続けても意味は無い、必ず破綻する、しかしどうすればいいか分からない、何より経営者にうまくいかなかったとは言えない、ということで八方塞になっています。
何がどうなっているか
 この内容をまとめると、いくつかの矛盾が見えてきます。

・コンサルティングなど外部の支援を得るための費用を確保できないと言っているのに、診断ツールを購入している。
 そのまま手を加えず使うだけでも購入するのには5、600万円の費用がかかります。つまり、考える部分は自分たちでやるべきで、手段としてのツールなどには費用を使ってもいい、という考えだということになります。
・自らで考えるべきだと言っている経営者の方が、費用を使って診断した結果などをいまだにレビューもしていない。
 社員があまりに低いレベルなので見せれないということは、経営者の方がレビューしていないことになりますし、さらに言うと、人材の育成が人任せでその重要さや自らの責任を認識していないのではないか、とも取れます。
・このまま続けても破綻することが分かっているのに、対策が打てない。
 担当の方が経営者に相談しても否定されるだろう、また、自分が取っている方法が良くないことを分かっているのに変えれないというのは、やっても無駄だというある種の固定観念があるように感じます。これは本人の問題もありますが、それより担当が気兼ねなく動ける環境を作っていない経営者や体制に問題があると推測できます。
今後の取り組みに対して
 「企業としてどうあるべきか」を考えずに現状の診断だけをしても次のステップが無い、というのは聞けば誰でも理解できます。また、「ITスキル標準」のフレームワークだけだと、自社ビジネス目標を達成するために貢献する人材像を表わせません。ITスペシャリスト/データベースのレベル2の人を3に上げて、会社のビジネス目標のどこにヒットするかなど分かりようもありません。人材像を考えると、仕事の仕方や役割・責任範囲は、ビジネスモデルの違いから会社ごとにそれぞれ異なるからです。
 この企業の内容は、多かれ少なかれかなりのITサービス企業に当てはまるのではないでしょうか。「ITスキル標準」がいいか悪いかではなくて、企業自体がそれを受け入れる土壌すらできていないことが明白です。
 それに対してユーザー企業は、自分たちが実施しても知識・経験不足で時間がかかって非効率なものは、お金を払ってでも外部の支援を受けます。その方がずっと内容的にもコスト的にもBetterだということを知っているからです。うまく外部を使って効率よく進めて行きます。ITサービス企業は、その使われる側の状態のままこれからもずっと位置していていいのでしょうか?
 経理についてあまり知識が無いのに、決算を自社のメンバだけで時間をかけて作業するでしょうか。結果も不安になります。それより、プロの支援を受けるのが早道です。
 「ITスキル標準」導入も同じことです。以前も書きましたが、導入を進めている担当の方に、現在一番の問題はどういうことですかと聞くと、「自分の理解不足が一番心配です」とすぐさま答えられます。これが現実なのですから、やはり認識して一番いい手を考えるべきだと思います。また人材育成を考えるなら、継続して運用して行く方法をしっかりと検討しておく必要があります。


ITエンジニアに光を!
 国の政策で電子政府などIT化に関するものをよく目にします。たとえば住民票や様々な公的申請書類などをインターネットを使ってやり取りできるようにする、というものです。しかし、焦点が当たっているのは、IT化された結果の状態であって、そのIT化のためにものづくりをする人材にはあまり光が当たっていません。たとえば建築業界では、表参道ヒルズを設計した安藤忠雄氏はじめ、多くの有名な方々がいます。それに比べ、IT業界ではJRの複雑な運行システムを設計し開発した人にスポットは当たりません。
 これでは、これからの若者がITエンジニアになりたいと思えない状況を作り出しているのと同じことになります。
 この状況は誰かが変えてくれるだろうではなく、ましてや国がやるべきだではなく、経営者から現場エンジニアまで今そこにいる全ての関係者が認識して変えていかなくてはならないものです。自らどのようにスキルアップしていくか、どのように人材を育成すればよいか、棚上げにしてきたITエリアでの課題を重く受け止め、克服して行く努力と使命感が必要です。
登録:2011-01-30 15:43:34
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