インタビュー対象企業として60社、ユーザ系は大手や情報子会社、ITベンダ系は100人程度から5000名以上の企業まで幅広く設定しています。48話では導入検討中の企業のパターンや実例を紹介しました。今回も引き続き検討中の企業を紹介します。インタビューは大変ですが、やって良かったと思える企業に出会いました。今後導入をお考えの皆さんに是非参考にしてもらいたい内容です。
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導入検討中の企業、「B社」の事例 |
会社規模は200名強で、システム開発から運用、パッケージの適用コンサルテーション、また汎用コンピュータからオープン系まで幅広いビジネスを展開されている会社です。役員の方自らが「ITスキル標準」にどう取り組めばよいか試行錯誤されて来ました。何故導入の必要性を感じているかは、以下の理由によります。
・創業して長いため、管理職の数が多くなってきている。 ・過去からの年功序列が引き継がれており、管理者の能力が足りているか、また報酬が妥当かが疑問である。 ・以上のことにより、企業の活性化という点で問題あり。 ・よって給与体系を見直したい。また、「ITスキル標準」の考え方をうまく活用したい。
ここまでは、きっかけとしてよくある話です。その後の対応として、やはりよくあるパターンは次のようなものです。
・担当者をアサインする。(人事、人材開発など) ・担当者は情報を取ろうとするが、うまく行かず限りある情報や関係企業から聞いて、スキル診断ツールを使ってまず現状を把握しようと考える。 ・診断ツールを選択してやってみる。 ・診断を受けた側から色々な意見が出るが、次のステップが見出せず停滞する。
しかし、この企業は異なります。 まず、役員の方自らが理解して方針を決めないことには失敗するとの判断で、担当者をアサインされず、考え方や取り組み方が明確になるまで、自分ひとりで動かれています。まず、大きく判断されたのは以下の通りです。
・「ITスキル標準」は、大きすぎて全体をそのまま取り込むのは無理。 ・定義されているスキルだけでは、自社の収益構造上の人材像を表現できないので、追加して行く必要がある。
「ITスキル標準」自体の理解は、存在する資料や書籍、ITSSUGのセミナーなどを利用して進めました。自社導入のために考え方を整理する目的で、まず事業内容から自社に必要な職種をピックアップして行きました。
・PM ・コンサル ・ITS ・APS (ITAはピンと来ない)
次に自社の職能資格制度で定義している内容と、「ITスキル標準」をうまく結合することができるかにトライしています。 「うまくできない」というのが結果でした。現状ではここまでです。
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どこが参考になるか |
この企業の目的は、次のようなものだと考えられます。
「ITスキル標準」を活用して自社の事業形態にあったモデルを作り、人材育成や人事給与制度に生かした上で、企業自体の活性化を図りたい。
その裏づけとなるお話が聞けました。 「技術や業務スキルも必要だが、客に対応できるエンジニアが求められる。育成や評価の観点では重要だ。」「いままでの評価は、見えているものや感情にとらわれすぎてアバウトになりすぎている。」「可視化し、エンジニアに自覚させて自らモチベーションアップできるようなエンジニアを伸ばしたい。」 そう考えると、何をどうしたいかという具体的な目標が明確にできます。それと、よくあるパターンのように、担当を決めて丸投げしてしまうのではなく、役員自ら理解して方針を決めた上で体制作りをするという考えです。 この企業の考えをまとめると以下のようになります。
・当初は役員自身が検討を進め、方針を明確にしてから担当や体制を決める。 ・事業形態に合った目標人材像を明確にする。 ・「ITスキル標準」のスキル定義だけでは、自社の目標人材像を描けない。よって、独自のものを追加することになる。また、診断ツールは同じ理由で使えない。 ・人事給与制度に反映する。 ・企業価値の検証をしたい。 ・導入により、エンジニア自身に自覚させる。(自分たちのものだと認識させる) |
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今後の進め方 |
今までの考え方や進め方はうまく整理されています。人事制度にリンクさせると明言されたのも、いつからかという課題はあるにしろ、社員の皆さんが明確に認識できて大変効果的だと思います。 しかし、現段階は次の策が見えないという感じです。ここからがとても大事ですが、社内だけで進めて行くには理解度や方法論の上で無理があります。「経営者向け概説書」のはじめの方に載っている導入手順のフローで行くと、経営戦略や事業戦略から必要な人材への要求をまとめる「要求モデリング」、そして企業自体のあるべき姿を機能で表す(ToBeファンクションモデル)ためのファンクションモデリングのステップが必須です。「ITスキル標準」のどのスキルが必要か、またどのスキルが不要かは、ファンクションモデルから判断しないと分かりません。また、どのようなスキルを追加していいかもファンクションから考えないと、他の人にうまく説明ができなくなってしまいます。 この企業の場合、次のステップをこのフローで進めることができるかどうが大きな別れ道になりそうです。これらの指導ができる能力や実績を持った外部のコンサルを使われるのが早道で、結果的にコストの面でも有利になると思われます。社内だけで試行錯誤し遠回りするより、早くいいものを社内に提供して行くことが先決です。運用して行く中で、改善しながら自らのものにして行くというものだからです。
インタビューによる実例のまとめは、次回以降もさらに続きます。 |
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登録:2011-01-30 15:43:10
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