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コラム
第48話:「ITスキル標準」企業活用状況 〜インタビューによる調査 その3
 昨年末から企業インタビューを続けて約40社を回り終えました。思っていたよりかなり単一パターンで驚いています。IT業界では戦略というものは存在しない、人材育成を考えてこなかった、私自身が今まで経験してきた中で実感していることが、あまりにも明確に現れていることに愕然としました。
「ITスキル標準」についての関心度
 2005年12月7日にITSSユーザー協会主催で開催された「ITSS User's Conference 2006」に参加された方々は、のべ2200名にも上ります。2004年開催時は1600名でしたので、明らかに関心度は上がっています。しかし、今回も前回も協会員の参加は1/3ほどです。協会員は2004年末で約130、2005年末で約160で、増加率はたいしたことがありません。委員会などの協会活動に積極的に参加される方も1部に限定されてきました。また、今まで退会された方は、こういう類の団体にしてはごくわずかだと思いますが、その理由をお聞きすると、担当が退社、もしくは転属で引き継げない、また会社の方針が変わったというのが一番多く、メリットが無いというよくある意見も耳にします。担当の方は企業の一員ですから、活動するにも制限があり、情報だけ欲しいということでしょうか。それにしても、頑張って活動いただいている方々と、そうでない方々の差があまりにも大きいのが実態です。
 IT業界の各企業で「ITスキル標準」を認識していない企業は殆ど無いと思います。本格的に人材調達に活用し出した大手ベンダーも登場し、各企業においても何らかの策が必要だという環境になりつつあります。しかし、機運が盛り上がっている一方で、協会会員数の少なさ、また、その中でも積極的に活動される方の少なさなど先に書いた状況であり、積極性の無さ、受身の姿勢や方向性の乏しさを感じ、非常にバランスが悪い現状に見えます。
導入検討中の企業
 インタビューの対象の60社は、単に「ITスキル標準」に興味を持っているだけではなくて、少なくとも何とか導入したいと考えている企業です。全社にインタビュー終了後、データをまとめてみないと何とも言えませんが、今までのところだと導入できて1部でも運用を開始している企業は、1/4もない状況です。中にはスキル診断を実施しただけなのに、導入できていると信じている担当者の方々がいましたが、話を聞くと明らかに導入できているとは言えない状態でした。
 46話でも少し触れましたが、担当をアサイン、もしくはタスクチームなどを設置して導入検討中の企業の特徴は、以下の通りです。

<うまくいっていないケース>
@人事、総務などの教育担当・人材開発の部署が事務局になり、各部署から担当を選出して検討会を始めたが、以下の理由で進捗が思わしくない。
 ・目的が不明確、何のメリットがあるのかという指摘を受けて不評。
 ・担当者が多忙で集まりにくい。
 ・社内の人材のみで進めているが、「ITスキル標準」に関する理解度が不十分で、どう進めていいか分からない。
 ・方法が分からず、ベンダーなどに言われるままスキル診断をサンプル的に利用してみたが、職種専門分野と仕事内容が不一致、中身に信憑性がないと不評。
 ・当初スキル診断などで、企業平均と比較して自社の価値を確認したいという思いがあったが、ビジネス形態がそれぞれ異なる企業平均自体に意味があるか、またそれと自社を比較することにどれほどの価値があるが疑問。
A人事、総務などの部署が中心になり、たたき台としてのスキル定義や「ITスキル標準」と人事制度のリンク表などを作成し、各部署のマネジメントにレビュー依頼。
 ・説明不足で現場の理解を得られず、頓挫している。強制力で進めたケースもあるが、結局レビューというより、見ただけということになっている。
B個人が担当者としてアサインされ、仕事の合間を見つけ長期間かかって調査・作成した。しかしどのようにインプリすればいいか分からず停滞している。
 会社から兼任ということで個人がアサインされ、時間を見つけて地道に調査勉強し、作業して成果物を仕上げたが、内容に自信がなく、どのようにインプリしていいかも分からない。場合によっては1年以上も時間をかけているケースもあり。

<比較的うまくいっているケース>
@人事、総務などの教育担当・人材開発の部署が中心になり、各部署から担当を選出して検討会を実施。
 ・社長や経営層からトップダウンで社内に導入推進と協力要請を明示。
 ・診断ツールなど手段から入らず、社内の期待人材像作成を第1ステップの目標に挙げている。
導入検討中の「A社」の場合
 今回取り上げるA社は、位置づけとしてユーザ企業の情報子会社に当たります。親会社の仕事を受けるのが主たる業務で、売り上げの8割以上を占めます。私の知る限り、この割合は情報子会社の位置づけに当たる企業の典型的なものです。ご多分に漏れず、企業方針としては外販の割合を増やして行く、つまり仕事を自分で取ってこなしていく姿を目指すという方針が打ち出されています。
 その中で経営層が認識している課題として以下のものがあります。

・親会社からの出向者も多く、親会社の1部門という馴れ合いの雰囲気が蔓延している。
・仕事は親会社から来るものだという認識である。
・プロジェクトなどが赤字になっても問題視されない。
・よってスキルが低く、全体に危機感に乏しい。

 以上の内容は、情報子会社の企業に共通した課題ですが、経営層の何とかしなければならないという危機感は相当なもので、方針に沿って外販を増やして行くには、人材を育成していくしかないという強い思いがありました。
 進め方に妙案が無いかと思案していたところ、雑誌で「ITスキル標準」を見つけ、早速活用するための調査に入りました。それ以後は以下のような経緯です。

・人事教育担当者を推進者としてアサイン。
・担当者は調査を開始。調査できる情報が少なく、出入りの教育ベンダーに相談。
・診断ツールを提案され、とにかく一度やってみようと、1部署の数十名に協力をあおぎ、スキル診断実施。
・実施後問題として現場から上がってきたのは、以下の点。
 −職種専門分野の定義と、実際の仕事内容、範囲が食い違う。言葉の使い方が社内と合っていないなど受け入れ難い差がある。
 −自己申告のためか、ベテランと若手のレベルが逆転してしまうケースあり。また、レベルが人によってばらつきすぎる。
 −よって信憑性に問題あり。
・これを受けて、現場のマネジメントを検討メンバに加え、診断ツールは使用しないことに決定。
・自社に関係する職種のみに限定し、「ITスキル標準」の原文をそのまま使ってEXCELでチェック表を作成し、サンプル試行実施。
・今後の進め方において以下の点で不安。
 −あいかわらず職種専門分野と現状の仕事の内容、範囲などが異なるという懸案は残ったまま。
 −EXCELで全社運用を継続して行けるか。
 −Ver2がリリースされると聞いているが、今後変更についてどうしていけばいいか。
 −推進者自体が「ITスキル標準」に対して理解不足。 
まとめ
 導入検討中のこの企業に関しては、試行錯誤で遠回りしている観もありますが、以下の理由でまだうまく行っている部類に入ると思います。

・経営者のトップダウンでの推進。
・目的は何か、という視点で推進者が適切な判断をし方向転換している。
・現場を巻き込む方向で進んでいる。
・推進における課題を明確に持っている。

 推進して行くための不足点は明確に認識しているものの、その対策を立てられないでいるという状況です。このままで進めると、方法論が不明確なまま推進策に自信がもてない、ということは成果物にも自信がもてないということになります。
 現場を巻き込むということは必要なことですが、方法論や進め方が不明確なままですと効果が上がりません。
 私の経験では、「ITスキル標準」自体やその活用方法、導入手法などを今一歩理解できていないのに、内部だけで進めるというのは無理がある場合が多く、誤解したまま進んだり、バランスが悪くなることになり、結果的に多くの貴重な社内の工数を使い、遠回りするなど非効率になります。しかも成果物に対して自信が無いということにもなりかねません。また、社内の工数を使うことにより、逆にコストアップやビジネスの機会損失などにつながる危険性もあります。

 次回も続けてインタビュー結果の深堀を進めます。
登録:2011-01-30 15:42:48
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