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コラム
第44話:「ITスキル標準」活用への対応 〜その3
 第43話では、「ITスキル標準」の理解しにくさからくる弊害と、その対応策について考えてみました。いままでのコラムでは、どちらかというと主に活用側の考え方を元に述べてきました。「導入の3つの視点」などは、まさに活用する側に立った考え方です。しかし、提供されるものが11職種38専門分野のスキルフレームワーク、800ページにも及ぶその定義、そして研修ロードマップだけでは、どうしようもありません。今回は、提供側に立ってどのようにすれば分かりやすくなるか、という観点で解決策を探ってみたいと思います。
資料として正式に発行されているもの
 経済産業省やIPAから現在提供されているものは、以下の通りです。

@スキルフレームワーク
 11職種38専門分野のマトリクス
Aスキル定義(約800ページ)
 スキル領域のスキル定義
B研修ロードマップ
CITスキル標準概説書
 初期の小冊子
D「ITスキル標準ガイドブック」
E経営者向け概説書
 2005年12月に発行された小冊子

 @のスキルフレームワークしか頭に残っていない方が多いというのは、ご存知の通りです。また、Aは職種・専門分野ごとに定義されていますので、同じスキル定義が色々なところに出てくることになり、当然のことながらページ数が膨大になるということになっています。Bは教育プランに関することなので置いておくと、Cは初期に出された概説書で、日経ITプロフェッショナルの付録になったりしていました。しかし内容はほとんど無く、リリース当時ならいざ知らず今ではあまり使い物にならないといっていいでしょう。特に事例のところは、人事制度への活用事例ばかりで、今見るとあまり参考にもなりません。Dは昨年9月に発行されたガイドブックで、私もレビュー委員として参加しています。4200円と大変高価なもので、企業に一冊、人材開発担当者が持つ、という設定で考えられています。内容としては、全体的に分かりにくい印象を持ってしまいます。個人的な考えですが、これはそれぞれのパートを別の方が担当されたために、一貫性に欠けるというイメージがあるためだと思います。ただし、書かれてあることは、大変参考になるものが多く、かなり「ITスキル標準」の理解に役立つものです。Eは12月初旬にできたばかりのもので、私がかなり関わっており、実績があり有効性が証明されている導入手法や考え方をもとに分かりやすく書かれています。「ITスキル標準」を解説する部分はほとんど無く、どのように理解するか、どのように活用するか、メリットは何か、先行して導入している企業の考え方や実際の結果はどうなっているか、というようなことを経営者視点で説明しています。
「ITスキル標準」セット
 今の状態は、提供側の考え方で提供されており、そこに活用者の視点は希薄であると言えます。どのように導入すればいいか、HOWがまったく示されていません。分厚い辞書をドカッと前に置かれて、さあ好きなように料理していいよ、と言われているようなものです。
 以下は、活用側の視点に立って必要なものを並べたものです。

@スキルフレームワーク(既存)
A概説書(既存) → ただし内容の全面見直し必要
B経営者向け概説書(既存) 
Bスキル領域スキル定義(新)
C職種専門分野ごとスキル定義(既存)
DITスキル標準ガイドブック(既存)
E導入ガイド(新)
F事例集(新)

 新規のものだけ説明します。BはITSSユーザー協会が1年間実証実験してきたスキル定義コンテンツと同等のものを指します。Cではスキル定義があちこちで重複していますが、この中では全てスキル定義はユニークです。今後のメンテナンスを考えても、ユニークなもので管理して行く必要があるのと、導入時にファンクションモデリングからスキルセットを策定する局面で必要になります。(第29話:「経営戦略からIT戦略へ」その1〜その場面で如何に「ITスキル標準」を使うか。〜) Eは、そのものズバリ導入手順が詳細に書かれたものです。この導入手順をもとにして、企業に導入できる姿を目指す必要があります。さらにFは、様々な成功事例、失敗事例を集めたデータベースです。
現在の提供されている資料で不足しているもの
 導入における関与者から見た視点で、現在うまく資料が提供されているか検証してみます。

経営者     → 必要性の理解 「経営者向け概説書」 内容○
             事例集 なし ×

経営企画    → 必要性の理解 「経営者向け概説書」 内容○
             詳細理解 「ガイドブック」 内容○
             事例集 なし ×

人材開発担当者 → 概要理解 「概説書」 内容△
              詳細理解 「ガイドブック」 内容○
              事例集 なし ×

導入責任者   → 概要理解 「概説書」 内容△
             詳細理解 「ガイドブック」 内容○
             導入手法理解 「経営者向け概説書」 内容○
             導入手順 なし ×
             事例集 なし ×

人事担当者   → 概要理解 「概説書」 内容△
             必要性の理解 「経営者向け概説書」 内容○
             詳細理解 「ガイドブック」 内容○
             導入手順 なし ×
             事例集 なし ×

現場責任者   → 概要理解 「概説書」 内容△
             詳細理解 「ガイドブック」 内容○
             導入手法理解 「経営者向け概説書」 内容○
             導入手順 なし ×
             事例集 なし ×

 この状態では、実際に取り組んだときになかなか前に進めないのもうなずけます。
「ITスキル標準」セットの必要性
 先に述べた7つの資料群は、「ITスキル標準」普及のために必須であると考えています。さらに、活用側の立場やミッションにより見たいものが異なってくるのは当然なので、この7つの構造をスムーズに見て行くことができるような全体をガイドできるようなものが、前に付いていると活用側のことを本当に考えていると言えるのではないでしょうか。
 セットは「ITスキル標準」を普及させる上で必須ですが、構成しているそれぞれが全てIPAから提供される訳ではないと思っています。活用サイドの強力な推進母体であるITSSユーザー協会、またJISAやJUASと一緒になって役割分担しながら進めていくべきものだと考えています。これに関しては、企業も個人もひとごとだと思わず、積極的に取り組むべきだし、それが強く求められる局面にきています。

 次回第45話は、「ITスキル標準」活用側の現状を考えて見ます。
登録:2011-01-30 15:42:07
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