第37話では、エンジニア個人の現状について注目してみました。このパートの締めくくりとして、ユーザー企業の状況に目を向けて論点をまとめます。
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ユーザー企業の現状 |
ITサービスを受けるユーザー企業はどういう状況なのでしょうか。 私は日ごろユーザー企業のIT部門責任者や、担当の方々とお話しする機会が多いのですが、彼らとの話しの中で以下のような課題を抱えていることが浮き彫りになってきました。 「IT部門は、経営者からすると単なるコスト部門ではなく、戦略部門という位置づけで期待が大きいが、実態はかなりの乖離がある。」 その原因は、以下のように考えられます。 ・他の現場部門、いわゆるエンドユーザから見て、IT部門は単なるITインフラ管理部門という認識になっている。 ・アウトソーシングの推進で、ITベンダにかなりの部分を任せており、IT部門は人員も縮小されて、本来責任を持つべきところにも人材が不足し、スキルの空洞化が発生している。その結果として、RFPまでITベンダ任せで、さらに提示された提案書に記述されている金額を予算として計上するケースもあるという。 |
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課題の明確化 |
ITサービス業界では、技術者を用意すればお金になるというプロジェクト形態が、長く続きすぎた感があります。その間、技術者を育てるという感覚が希薄だったことも多くの方が認める事実です。大手企業は外注管理が主体、下請けの企業群は仕事が縦割りのためITサービスの全体像を掴みにくいという体制が、どこにもスキルの蓄積ができない状況を作り出してしまいました。 一方で、先述のようにユーザー企業がコスト意識からアウトソーシングを推進した結果、運用の丸がかえが多くなるなど、ITベンダへの依存度が高くなりました。また、IT分野は日進月歩ですが、最新の技術を使ってコストを抑えることができても、アウトソーシングの価格低下を恐れ、ITベンダは、新たなソフトウェア、ハードウェアの提案に対して消極的になるケースも出始めました。これに対して、ユーザー企業側のIT部門では、アウトソーシングの増加に伴い、人員の減少やスキルの空洞化に直面。ITベンダに、その事実を指摘することが難しい状況にありました。これでは、ユーザー企業のエンドユーザー部門の要求を満足させるサービスを提供できるはずはありません。こうした状況が、エンジニアのスキルレベルを低下させている事実は否定できないのです。 |
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見えてきたユーザー企業の方向性 |
しかしながら、企業経営とITはますます密接になり、経営者のIT部門への期待は膨らむばかりで、経営層の方々自らがIT部門のあり方を真剣に考えられるようになってきています。そして、IT部門のあるべき姿を、以下のようにスキルベースでロジカルに定義し、さらにそれをブレークダウンして目標人材を明確にするというユーザ企業も出始めています。
・事業戦略からIT戦略を導き出し、策定できる能力 ・経営戦略、エンドユーザ要求からRFPを作成する能力 ・エンドユーザの要求や考えを分析し、必要な機能を導き出す能力 ・ITベンダからの提案書を正しく評価し判断する能力 ・プロジェクトマネジメント能力 ・日々のシステム運用から改善点を提案できる能力 ・障害時に、その影響が及ぶ範囲を限定的にすることができる対処能力と、対処に当たっての判断力とリーダシップ
このような取り組みは、「ITスキル標準」の登場によって見出された新たな視点によって可能になるものです。従来のように抽象的なものではなく、非常に具体的に議論できる環境が整ってきたという状況です。
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登録:2011-01-30 15:40:27
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