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コラム
第36話:ユーザ企業とITサービス提供事業者 プロジェクト進行上それぞれ何が必要か 〜その2
 第35話では、ユーザ企業とITサービス提供事業者の提案フェーズからシステム構築プロジェクト進行上、また本番スタート後のそれぞれに必要な能力についてまとめました。それであるべき姿はイメージできますが、現状はどうなっているのでしょうか。まずはITサービス提供事業者から明らかにしていきます。
ITサービス提供事業者の人材育成の観点
 エンジニアのスキル管理は、もともとプロジェクトに必要なメンバを選択したいという理由からスタートしました。後ほど人事処遇にも使用されるようになりましたが、あくまでも各社独自の方式で共通性が無く、ほとんど企業間で活用することなど考えも及ばないことです。そして当然のこととして人材育成の仕組みも、一企業内にクローズされてしまいました。各社が投資する額は、それに関わるメンバの人件費を入れると膨大になるばかりか、その間直接ビジネスに寄与する活動ができないというマイナス面があり、ダブルパンチの状態です。また、人材育成のために投資することを、後回しにされる経営層の皆さんが多いのも確かです。しかしながら、社内メンバが関わることに対してはキャッシュアウトが無いため容認したり、かなり大雑把な考え方であり、認識が低いと言えます。
 一方この状態では、教育機関と連携した人材育成システムなども構築できないため、一貫した人材育成とは程遠い形態と言わざるを得ません。経団連2005年6月レポートでは、大学でのIT教育は学問的なコンピュータ科学に徹し、産業界が期待する実務的な分野は、就職後企業側で再教育しなければならないという無駄を引き起こしていることが報告されています。
 仕事の仕方も変わりました。量でカバーしていた時代は終わり、それぞれの役割を持った技術者をプロジェクトの中にどう配置するかという体制作りが重要になってきています。しかし、現状がそれについて行っていません。
 別の観点では、若いIT技術者が減りつつある現実も見逃せません。学生から見たITサービス業界、ITエンジニアという職種は、他業界に比べてさほど魅力を感じられない待遇などが目立ち、ひと頃に比べ間違いなく人気が低下しています。
 優秀な技術者をどのように確保していくか、また後継者をいかに育てるかということが大きな課題として認識されています。
ITサービス提供事業者のビジネスの観点
 ITサービス業界では、エンジニアを用意すればお金になるというプロジェクト形態が長く続きすぎ、その間、エンジニアを育てるという感覚が希薄だったことも多くが認める事実です。大手元請企業は外注管理が主体、下請けの企業群は仕事が縦割りのため全体像を掴みにくいという形態が、どこにもスキルの蓄積ができない状況を作り出しています。こうした状況が、エンジニアのスキルレベルを低下させている事実は否定できないのです。
 同時に、ユーザ企業がコスト意識からアウトソーシングを進めた結果、丸がかえが多くなるなど、ITサービス提供事業者への依存度が高くなりました。また、IT分野は日進月歩ですが、最新の技術を使ってコストを抑えることができても、アウトソーシングの価格低下を恐れ、ITサービス提供事業者は、新たなソフトウェア、ハードウェアの提案に対して消極的になるケースも出始めました。これでは、ユーザ企業の要求を満足する提案ができるはずはありません。 また、大手ITサービス提供事業者の中には、「ユーザの言う通りにするしかないので、自社の戦略など持っていても仕方がない」と公言する経営者の方もおられ、このままでは企業としての成長は永遠に不可能です。
ITサービス提供事業者としての人材戦略の捉え方
 ITサービス提供事業者に、人材育成のために投資するという意識や、ビジネスに貢献するエンジニアを育てるという意識が不足しているという事実は否定できません。たとえば来期予算立てを考えるときに、エンジニアのスキルとは無関係に「今期の○%増」という売上目標が設定されてしまうケースによく遭遇します。スキルレベルの実情に合わない目標設定によって現場でトラブルが発生し、目標達成に影響が出ている状況は典型的な例です。このように、ビジネスに直結しない場当たり的なものが多いという感は否めません。
 本来、自社の強みとなるエンジニアのスキルは、企業の大小に関わらず競争力の源泉となるはずです。エンジニアの実力をスキルベースで捉え、自社の強み弱みをしっかり把握した上で、ビジネス目標や人材育成、調達計画を立てる必要があります。企業自らのビジネス目標を達成するために、どのようなスキルを持つエンジニアが、いつまでにどのくらい必要なのか、という人材戦略を明確にしていく必要があります。ビジネス目標を前提とした人材戦略を描けなければ、たとえば新人を育成するのか、中堅技術者を育成するのか、あるいは中途採用で対応するのかという判断もできません。

(第37話につづく)
登録:2011-01-30 15:39:58
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