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コラム
第248話:スキル標準の歴史とiCD & ITSS+ 〜その1
 最新のスキル標準であるiCDやITSS+は、「企業」での活用が基本です。これまでもITSS、UISS、ETSSなど旧スキル標準についても、多くの企業が活用してきました。これらスキル標準の策定経緯や活用について、振り返ってみたいと思います。また、DX推進を見据えた活用方法についても深堀していきます。
ITSSの公表と活用状況
 2012年12月にITSSが登場した時に、注目したのは企業の経営者、人事担当、および人材開発担当でした。当初、提供側のIPAからは技術者個人視点の話と企業の組織視点の話が混在したメッセージや、企業活用の場合、中身の変更はするべき、してはならないなど人によって話す内容が異なり統一されていませんでした。それが混乱や誤解を招く原因の一つであったと思われます。
 筆者は、当初より各スキル標準の改訂委員・策定委員を歴任していますが、この矛盾について追及・検討し、企業で活用するには次のことを守る必要があるという結論に達しました。

・ITSSのキャリアフレームワークや定義体は企業のモデルに合わせて再構築する
 ITSSは、キャリアフレームワークをはじめ、職種やスキル熟達度定義、達成度指標定義が細かく設定されているため、そのまま変えずに使うことが当初のイメージとして定着してしまいました。しかし、それでは企業の意志やビジネスモデルが反映されず、企業自身の考え方や事業計画とは全く乖離し、社内向けにも説明しにくい人材育成の仕組みを持ち込むことになってしまいます。

・人材像やスキルから定義するべきではない
 上記の理由からITSSキャリアフレームワークをそのまま使うことに違和感を持った企業が取り組んだのは、ITSSを参照モデルとして自社向けのものを作り上げるという試みでした。最も簡単な進め方として、必要な人材像を設定してそのスキルを定義していくという方法があります。これは人事系のコンサルなどが多用してきた方法でもあります。この場合、担当の方が頑張って定義しますが、その思いや使命感が次の担当者に引き継げず、フェードアウトする危険性が大きいのです。担当が替わった上にビジネス環境も変化し、構築した仕組みを見直すことになるケースが多く、引き継いだ担当者はどのように対応していいかわからないという状況に陥ります。また、策定したものに担当者個人の意思が反映されていて、他者に説明できる明確な根拠がないことも多いと言えます。人材育成の仕組みづくりは理論的な考えで進める必要があり、説明できないものは継続することも難しいのです。

・企業力や組織力を向上させることが目的であり、そのために必要な「タスク」を明らかにする
 スキル標準の企業導入の目的は、企業力、組織力を向上させ、目標達成に貢献できる人材を維持・確保・育成することです。そこに直結する考え方を形にするには、技術者個人の能力向上を目的にするのではなく、企業や組織自体を対象とした取り組みにする必要があり、それが将来を見据えたあるべきタスク構造の構築ということになります。

 以上の考え方を実証したのが、2003年のファイザー社へのITSS導入です。当時定説となっていた「どの職種・レベルに何人いるかというところからスタートする」ことに疑問があり、企業導入の方法論を検討し仮説を立て、ファイザー社で実証させていただきました。
 考え方は「ファンクションから入る」というもので、iCDのタスクと同様の考え方です。ITSSの達成度指標、スキル熟達度を分解し、SLCPに沿って再構成するという方法をとりました。iCDをご存知の方はお気づきのように、私が15年以上前に作り上げたこのコンセプトが、iCDの基本思想になっています。

 また、達成度指標でレベルが決まる、という局所的な話ばかりが先行していました。さらにスキル熟達度と達成度指標が文章上で同じ表現をされていることや、中身として未成熟だったこともあり、当初は多くの人が両方ともスキル定義だと誤解しているような状況も散見されました。達成度指標は成果を評価する指標であり、企業の人事制度に抵触する場合が多いという話など、大局的、現実的に語れる人は誰もいない状態だったと言えます。
UISS、ETSSの公表
 そのような状況の中、2005年にETSS、2006年にUISSが立て続けに公表されました。
ETSSは当初の基本的な考え方をまとめるときにアドバイスさせていただきました。また、UISSは経済産業省からJUASに委託された中に参画することになりましたが、先述のファイザー社で実証した企業への活用法やコンテンツの構造など多くを提供しました。
それぞれの公表時にITSSとは状況が異なっていましたが、当時の共通見解をまとめると次の通りです。

・エンタープライズ系のIT技術が対象のITSSは技術者そのものが成熟しており、企業の中でどのように活動していくかや、キャリア生成などが課題となっていた
・組み込みの世界は、まだまだ技術者が不足しており、いかに育成して技術者の人数を増やしていくかが課題だった
・ユーザー系のIT部門、情報システム子会社については、自らの仕事の範囲や内部の役割分担、パートナー企業との役割分担が問題となっていたが、ITSSはそれらの問題解決に適していなかった

これらITSS、UISS、ETSSの3つのスキル標準は、構造も考え方も異なり、複数のスキル標準を使う場合などどうしていいかわからず勉強ばかり繰り返している、そのうちそのサイクルも長くなり、担当者も異動で新たな担当になるか、棚上げになってしまうといった状況が続いてきました。

 また、別の見方をすれば、IT業界ほど人材育成について必要性が高いにも関わらず、真剣に取り組んでこなかった業界はないと言われてきました。数年前までの十数年かは、人を集めれば仕事になった状態が続いてきました。まるで派遣業を生業とするような小さなIT企業が乱立してしまったとも言えます。また、振り返るとこの時代は、IT化することがイノベーションだったと言え、誤解を恐れずに言えば、その間企業は本人任せで人を育成することを放棄してきたと考えるのは私だけではないはずです。
 しかし、現在はIT化することは当たり前であり、イノベーションでも何でもありません。こうなれば人材を育成する経験不足から、術やノウハウがあまりにも貧弱だというのは言いすぎでしょうか。

 そのような状況の中、民主党政権がスタートしたときの仕分けで、スキル標準は民間に移管するということが一度は決まりました。今後方針変更になるかどうかは定かではありませんが、国側とすればスキル標準を導入した経験のある人が内部にいない中で、改善することや維持管理は難しいということも重要な問題です。

 一方で、大手ベンダなどについては人も組織もコストもかけることができ、独自で進めています。しかしながら地域などの中小は先ほどの内容の通りだという認識です。
 IPAの人材白書でも、スキル標準に普及率は大手ではかなりのものですが、中小では全くと言っていいほど普及が進んでいません。放っておいてもできる大手企業だけ進んでいて、手厚いサポートが必要な中小企業にはほとんど普及していないということです。国側も地域や中小に対してはあまり手を打てておらず、年に1度か2度地方でセミナーを開催する程度では、焼け石に水だったのは否めません。

 〜その2 CCSF、iCDの公表へ入っていきます。
登録:2019-08-23 13:38:56
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