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コラム
第18話:「ITスキル」と「ヒューマンスキル」について
「ITスキル標準」は辞書という設定ですが、企業や個人の目標人材モデルは「人材像」です。「ITスキル標準」を導入する場合の「ITスキル標準」のスキル定義と、「人材像」には不可欠な「ヒューマンスキル」について考えてみます。
「ITスキル標準」のスキル定義について
コラムの中で何度かお話ししていますが、「ITスキル標準」の考え方について再度定義しておきます。
「ITスキル標準」は、「スキル熟達度」と「達成度指標」で構成されています。「スキル熟達度」は、スキル領域という分類形態でスキル定義項目群としてきちんと整理できます。ただし、公にはこの形にして見れるものは無く、ITSSユーザー協会の実証結果のものしか見当たりません。「組込みスキル標準」(ETSS)は、この「スキル領域」を「スキル基準」として発表されたわけです。このスキル定義を使用して、ツールやテストでエンジニアのかなりのスキル習熟度を評価することは可能です。一方の「達成度指標」は、そのスキルを使った貢献度に対する評価です。業務経歴書などに書かれる内容をどうすれば評価できるかですが、これはツールやテストで評価するのは難しく、さらに経験の深いアセッサーが第3者として評価するのが適切です。例えば情報処理試験やベンダー資格は、「スキル熟達度」の評価がメインであり、ビジネスにどう貢献したかを評価するのは非常に困難です。論文等がそれに当たりますが、実際には試験対策というものがあって、経験していなくても上手く文章を構成すれば合格しているという現実があるのは確かです。
つまり、「スキル熟達度」はスキル管理システムの仕組みによって継続して維持管理ができ、その内容で評価が可能であり、「達成度指標」はそのスキル管理を含めた仕組みの中で評価するのが妥当だと考えています。仕組みというのは、アセッサーのスキルと経験を持った方が、インタビューをして「達成度」を評価するというプロセスや体制を持つということです。
「スキル領域」のスキル定義項目について
それでは、「スキル領域」のスキル定義項目について見ていきます。
当然ですが、1つのスキル定義項目は、「〜ができる」という表現になります。
例えば次のスキル定義は、「顧客リレーションの確立」というカテゴリ内にあります。

・設定されたサービスレベル通りに運用されているかを監視し、その結果の分析と報告ができる。

昨年度、経済産業省主催の「スキル評価ガイドライン策定委員会」に、私も委員として参加していましたが、その中で1つのスキルに対して4つのランクをつけるという方向性になりました。4つのランクとは以下の通りです。

・ランク1:知識を持っている。
・ランク2:実施可能であるが上級者の支援が必要である。
・ランク3:独力で実施可能である。
・ランク4:後進の指導が可能である。

知識の定義とスキルの定義を分けているのではなく、1つの定義項目を4段階で表現するということです。数字の段階よりも分かりやすいですが、これでも個人差があるのではないかという問いに対しては、「ITスキル標準」は経験ベースの考え方ですので、以下のように定義することが可能です。

・ランク1:トレーニングなども受け、実施における準備は整っているが、実施の経験が無い。
 本で見たりしてキーワードとして知っているのは対象外ということです。
・ランク2:既に上級者について実施の経験はあるし、独力でもできると判断しているが、その経験が無い。
・ランク3:独力で実施でき、後進指導もできると考えられるが、育成プランを考えたり、正式に指導した経験が無い。
・ランク4:十分に実践の経験もあり、育成プラン策定も含めた後進の指導の経験がある。

先ほど、「組込みスキル標準」に触れましたが、「スキル基準」を先行して正式版としてリリースされ、その中の定義項目については、やはりスキルレベルとして4段階の整理をされています。

・初級:上位者の指導の下に実施できる。
・中級:上位者の指導が無くとも自律的に実施できる。
・上級:会の技術者の指導ができる。
・最上級:経験を体系化し先進的なやり方を工夫・開発できる。

位置づけは少し上にスライドしていますが、考え方は同じです。
ヒューマンスキルについて
先の「ITスキル標準」のスキル定義項目は、誰が見ても同じ内容で理解ができないとまずいと考えています。ですから、1つの定義を4段階で表現するなどの共通化が可能です。
では、ヒューマンスキルはどうでしょうか。
「ITスキル標準」では「コミュニケーション」、「ネゴシエーション」、「リーダーシップ」の3つが、これに相当すると思われますが、中身はというと教科書通りの言葉が並んでおり、数も少ない状態です。これは、最低限必要なものだけを定義してあると解釈するのが妥当でしょう。
しかしながら、標準化・共通化されたスキル定義と、最低限の「ヒューマンスキル」では、様々な意味を持つ「人材像」を表現するのは大変困難です。特に「ヒューマンスキル」系の表現は大変重要で、企業や個人におけるモデルとしては、ここでしか特色を持った表現ができないのです。
現在コンサルティングサービスを提供させていただいているある企業で、この局面に遭遇いたしました。以前のコラムでHR系のコンサルの方は、「ITスキル標準」の理解度が高くなく、スキル定義に関する考え方も偏っているというようなことを書きましたが、偏っているのはこちらも同じであり、「ITスキル標準」側からだけ見ているから、その様に言えるだけだと認識しました。私は「ヒューマンスキル」も、大部分を同じように共通化、段階付けが可能なはずだと考えていましたが、深く議論していくと確かにできないことはありませんが、そうすると企業や個人の「人材像」としての特色が出せないことを悟りました。「ヒューマンスキル」も共通化できる部分はあると思いますので、その部分はやるべきだとは思いますが、特色を出すべき「肝」の部分は共通化してはならない、ということだと思います。それにあった表現を独自に作り出すべきです。
目標人材モデルについて
企業や個人の目標とする「目標人材モデル」を策定していく上で、大別すると、ロジカルに考え組み立てていくのが、「ITスキル標準」のスキル定義、一方特色や独自性を出していくのが「ヒューマンスキル」と考えられます。また、「達成度」をどのように見ていくかも特色・独自性を出す意味のある部分です。
企業で言うとビジネスモデルや環境、文化などが大きく反映できていないと「目標人材モデル」と言っても味気なく夢の無いものになってしまいます。「ITスキル標準」は辞書なのですから、有効に使うことを徹底すればよく、必要な人材モデルとは何かを、経営戦略、事業プラン、ビジネスモデル、企業文化から求めていくプロセスが重要です。評価が目的ではなく、効果的な人材育成を実施して企業を繁栄させることが目的のはずです。それには、継続したスキル管理、それを含めた納得性があり効果的な育成の仕組みと体制、そして最も重要なのが人を育成するという経営者の強い意志です。そうすると今まで人事は人事だけ、現場は現場だけ、全体にバランスが取れていないという状況ではなく、一貫性のある仕組みを構築できるものと信じています。
登録:2011-01-30 15:34:12
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