スキルスタンダード研究所は、各業界へのスキル標準の活用・推進、プロフェッショナル人材育成に向けたコンサルティングサービスを提供します。
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コラム
第17話:スキル管理システム「SSI-ITSS」について
日立製作所が、ITSSユーザー協会所有のスキル管理システム「SSI-ITSS」(Standard Skills Inventory for ITSS)のASPサービス開始を、ニュースリリースされました。(ニュースリリースのコーナー参照)
これを機に、「SSI-ITSS」の内容や意義について説明します。
エンジニアとしての「人材育成」の考え方
私は日本オラクルに11年勤務していましたが、一番気にしていたのは「人材育成」でした。自分の役割は人事や人材開発ではなく、ずっとエンジニアとして現場を歩いてきました。システム分析のコンサルティング、サポートサービスの責任者、エデュケーションサービスの責任者、システム・エンジニアの統括などですが、現場として一番気になっていたのが「人材育成」で、特に若手の育成について頭を悩ましていました。入社して2、3年経って社内の一通りが分かると、やることが無くなったように感じたり、ここにいてはスキルアップできないのではないかと思うようになり、他の会社が良く見えてくるのです。よく相談に乗りましたが、いつも引っかかったのは、私自身がどうなりたいか良く分かっていなかったことです。会社から与えられた仕事をこなしてきました。やりたくない内容もありましたが、仕事だと思ってあきらめたこともしばしばでした。その中でやってみると面白く達成感があったのも確かです。しかし、やりたいことは何か、どうなりたいかは、自分の中ではっきりしていたわけではありません。なのに若手から相談されて、自信を持って話せる訳は無いと思っていたのです。何とかしたいという思いで、キャリアパスやスキルセットを明らかにするため、2度ほどタスクチームを編成して、その仕組み作りにチャレンジしました。頑張って大勢を巻き込んで作るのですが、絵に描いただけで、仕事が忙しくなって終ってしまったり、せっかく実行に移そうとしても経営陣が、「それは高橋が作ったものだろう。誰が担保するのか。」や、「後は誰が維持管理するのか」といった否定的な話しを打ち破ることができず終ってしまいました。そうして自分の中ではかなり長い間ストレスがあったわけです。
「SSI-ITSS」開発にいたる経緯
そんな中、2002年12月に経済産業省から「ITスキル標準」がリリースされました。今まで会社の中で、どうしても打破できなかったベースの部分が提供されたわけです。もうこれしかないと思い、経営陣に人材育成の重要性と、そのベースとなる「ITスキル標準」の導入を説得しました。日本オラクルも成長期のような右肩上がりの業績を達成できなくなっており、いかに人材が重要かを再認識するフェーズに入っていましたので、私の提案は割合すんなりと受け入れられることになりました。
そして、エンジニアの育成を担当することになり、仕組み作りに取り掛かりました。
今までの経験上、社員を相手にするには、難しい理解を強いるのは無理で、目的を明確にしてこうすればこうなるという仕組みで提供するのが一番です。
世の中にスキル管理システムは沢山あります。自社で独自に開発されたもの、ERPのHRの部分にスキルズインベントリが用意されているものもあります。自社のERPも検討しましたが、スキル管理だけで使うには余りにもERPは図体が大きすぎます。次に「ITスキル標準」準拠といわれている診断ツールを調査してみました。その結果、全てがまず初めに職種と専門分野の特定を要求してきます。個人ならともかく、それだけで企業では使えないと判断できます。職種専門分野などある限られた部分のスキルだけを対象としても、全体の強み弱みを可視化することはできません。「ITスキル標準」の11職種38専門分野に、会社ごと合わせようとするなら別ですが、ビジネスモデルや戦略の違いが、標準の中で表現できるはずがありません。新たにソフトウェアを開発するのは余り気が進みませんでしたが、時間をかけずに自社開発するしかないという結論に達しました。運良くパートナー戦略の一環でスキルを定量化する構想を練ってある程度実現していましたので、それがかなり役に立ちました。またその後、色々な方面での有効活用のために、日本オラクルは「SSI-ITSS」のITSSユーザー協会への寄付を快く承諾してくれました。
「SSI-ITSS」の基本理念
人事制度は企業の戦略であり、それを「ITスキル標準」に合わせるという考え方は理解できません。人事制度は、競争に勝ち抜く大きな戦略の一つです。また、経営戦略も会社によって異なるのは当然です。それぞれ企業のビジネスモデルも事業プランも異なります。人材育成もその戦略に合わせてプランするのが当然です。事業を進める上で、必要な人材像を明確にしなければ、育成プランなどたてれるはずがありません。企業のビジネス上、必要な人材を育成するために投資するのです。それが明確になっていなければ、何にどれだけ投資していいか分かりません。従って企業内での人材育成を考える上では、「ITスキル標準」のフレームワークを、そのままの形では使えないことになります。しかし、会社を離れた個人が、ITエリアでの自分のバリューを知ることはとても大切です。そしてその中で自分のゴールを明らかにできるなら、素晴らしいと思います。これができなかったので、冒頭の「自分は何になりたいのか分からない、今何をすればいいか分からない」ということになっていたわけです。この場面では、「ITスキル標準」のフレームワークを使えます。また、企業間での「調達」においても、そのまま使うことになります。ただし、調達の局面になると、詳細なスキルが必要となってくる場合があります。また、目標人材モデルにおいても、企業のビジネスモデル上詳細なスキル、たとえばプラットフォームではなくてUNIXやLinuxが必要になる場合があります。ITSSユーザー協会では「ITスキル標準」のベースになっている「スキル領域」をさらに詳細定義にブレークダウンして、昨年1年間実証実験を行ってきました。
これらを可視化していくには、職種専門分野などある限られた部分のスキルを対象としても、余り効果は見込めません。自分の持っているスキルを全て表現できなければ、個人にとってもプラスではないでしょう。何ができて何ができないかは、個人個人の経歴によってかなり違ってきます。初めから枠を設けることはできません。逆に「スキル領域」を使用したスキル管理を実施することで、同じスキル領域のスキルデータを、「企業独自のビュー」と「ITスキル標準のビュー」の2つの観点で可視化でき、企業及び個人にとって人材育成上大きな効果が期待できます。
「SSI-ITSS」は、この考え方を基本にした戦略的スキル管理システムです。
企業独自のフレームワークを作成でき、目標人材像を明確にした上で、現状の位置が可視化されます。どこが強みで、どこが弱みかが見えてきます。これで、事業プランからどこにどれだけ投資すべきかが明確になるわけです。個人からすると「ITスキル標準」のフレームワークを使って、自分が会社ではなくITエリアの中でどのくらいバリューがあるか、強みと弱みが可視化されます。これらを認識しておけば会社での仕事も、自分のためにどう役立つかが明らかになります。
また、人材育成は継続が必要です。一時的に力をかけて、その後尻すぼみでは元の木阿弥です。診断ではなくて「スキル管理」というのはそういう意味です。
登録:2011-01-30 15:33:55
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