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コラム
第184話:IT人材の処遇とキャリアデザイン
 今回はIT人材の置かれている環境について話してみたいと思います。

 ベンダー系にしろユーザー系にしろ、ITにかかわる人材は、技術については貪欲ですが、処遇、特にお金に関することには淡白だと取られがちです。本当のところ、そこはとても気になる部分なのです。
10年連続200本安打達成のイチロー
 今年は少し調子が悪そうですが、10年連続200本安打の偉業を達成したイチローは、7年連続を達成したときこうコメントしています。

 「低迷するチームの中にいて、自分のマインドを保つために必ず守っていたのは、試合後、一刻も早くクラブハウスを出ること」

 しかしながら、この直後にチームメイトから総スカンにあい、信頼関係や自分の位置づけを取り戻すのに、大変苦労したというのは有名な話です。

 皆さんはいかがでしょうか? 客観的に自身を見つめたことはあるでしょうか。また、仕事に生きがいや達成感を持っていますか?

 私の知る限り、なるべく早くこの環境(会社)から抜け出したい、と考えている人は結構多いようです。

 それはなぜなのでしょうか。
旧態依然の人事制度
 ITエンジニアは、自分の待遇は気になるものの、制度の理解や知識はあまりないというのが、一般的かもしれません。

 しかしながら、自分の価値を認めさせたいなら、現状の制度や成り立ち、さらに世の中の動きなどを知っておく必要があることは言うまでもありません。

 高度成長期を駆け抜けてきた日本企業の取った方法は、いわゆる年功序列型の考えです。

 日本企業は、この年功序列の考え方をベースに発展してきました。年齢を重ねて人事等級が上がり、役職が上がると給与が増えるという考え方です。年令給などを中心に定期昇給があったのも、今では懐かしく感じます。

 成熟期に入り、ポジションが減少する傾向が顕著で、全員が昇格していくわけにいかず、年功序列は守りながら能力が上がると昇給し、モチベーションを維持するという職能資格制度を取ってきました。これらは、いわば上昇指向を前提とした考え方です。

 しかし、現在は上昇指向で競争を望む人は少なくなってきたようです。このような上昇指向をベースとした制度、キャリアパスがまだまだ多い現状でしょう。

 次に試行錯誤を重ねて、コンピテンシー評価や成果主義に走りました。

 ちなみにアメリカの場合は、職務等級制度という日本とは全く異なった考えを持って進んできました。誰にというより、ポジションにお金を支払うという考え方です。これは人種問題という避けて通れない課題から出た考えです。
成果主義とキャリアデザイン
 では、成果主義はうまくいっているのでしょうか。

 仕事柄、よく人事や人材開発の方と話す機会があります。その中で結構耳にするのは、「うちは処遇制度としてMBOを使っている」というお話です。

 以前もお話ししましたが、MBOとは「Management By Objectives」の略ですが、本来は後ろに「and/thru Self Control」が付くのをご存知でしょうか?

 MBOとは「期初に年間目標を出して、期末に出来たかどうかの達成率で評価すること」とだけ考えている方はおられないでしょうか?

 キャリアデザインとは、将来自分がどうなりたいかを思い描き、そのために何をしていけばいいかを計画実行していくことです。PDCAを回していかなければなりません。

 その中の一番短期のサイクルとしてMBOを位置づける必要があるのです。1年1年で評価されて終わってしまうような途切れた考えではなくて、次の1年に、さらに次の1年に、また将来のキャリアにつながっていく必要があるのです。

 このように、本来あるべき成果主義の考えは、1年1年ぶつ切りになっているのではなく、将来のキャリアにつながる年間目標と、それに対するアクションが求められ評価されるわけですが、同時にフィードバックによる仕事の質のマネジメントと、質の理解を通じた次へのアクションが求められます。したがって、よくあるような目標の達成だけの管理は、あまり意味がないと言えます。また、数値だけではなく期待成果、期待役割を明らかにする必要があります。「成果主義≠結果主義」をよく認識する必要があります。
その中でのIT人材の状況、何故日本のIT人材のレベルが落ちてきたか
 IT人材自身は、その中でどういう状況なのでしょうか。
 インタビューしてみると、次のような意見が出てきます。

・自分のやりたいことをやりたいが、自社の中に将来像を描けない

・ポストが少なすぎて、上司の年令になったときに、その位置につける可能性は低い、従って給料も上がらないだろう

・管理者と自分の給料を比べて、そのくらいの差なら責任を負うことや、残業代がつかなくなるのは、よしとしない

・評価は上司が行うが、その能力があるか疑問だ、また人によって評価結果が大きく異なるので、評価指標自体や方法が信用できない

 そういう話をしている方々も、やる気があって前向きなタイプと、給料分だけ仕事をすればいいという後ろ向きタイプに2極化されています。

 前者が1〜2割しかいないというのも厳しい現実です。

 少し話の方向を変えますが、今まで日本のソフト産業を引っ張って来られた方々は、大変な苦労をされているはずです。しかし、世の中は変わりました。こうしている現在も急速に変化しています。それなりにうまく行っているからいいじゃないかというような現状肯定型では、とてもこの変化に対応できません。

 結果として、OSはマイクロソフト、ネットワークはシスコシステムズ、データベースはオラクル、ERPはSAP、挙げればきりがありませんが、日本のソフトウェア産業の基盤は、ほとんど全て外資に牛耳られてしまいました。昨今では、クラウド・コンピューティングを筆頭に、さらに海外発の新しい波が押し寄せています。

 また、それどころかエンジニアのスキルレベルが極端に落ちて赤字プロジェクトが多発し、企業に甚大な損害を与えています。だからプロマネが重要だと、一部ではまた偏った手段ばかり追いかける方向になったりしています。

 後進を育成することを考えてこなかった、また育成する方法が分からない、なぜかというと自分もしっかり育成してもらったことがない、こういう中堅以上のIT人材が多いのは、色々コンサルティングしてきた筆者の実感値です。ベースをしっかりと習得したIT人材であって初めて色々なことを省略したり、柔軟に対応できるのです。現実にうまくトレーニングできていないのです。

 さらに、ユニークな考えを排除し「どこを切っても金太郎飴型人材」を求めてきたのは、高度成長期の大量採用の中での人材要件から来ているとも言えます。
IT人材はどこに向かえばいいのか
 ネガティブな話が続いていますが、少なくともその中にいるIT人材の皆さんには、この状況をしっかり認識してもらいたいと願っています。

 これらの話は、時間をかけて積み重ねてきた結果であって、簡単に感性で切り返せる内容ではありません。

 この世界で生き抜いて実績を挙げていく、そして仕事に達成感とやりがいを持って進めていくには、深い認識と理解、高い能力が必要です。そして、自分はどうなりたいかを常に強く思い続けることです。当たり前ですが、なりたい目標を持たない限り、そうなることは絶対にあり得ません。

 60歳で定年になるまでの気力と体力の充実した期間を、最低週に5日間、1日8時間以上も仕事に費やすのです。平日は仕事をしていないときは、ほとんど食べているか寝ているかでしょう。その重要な期間に、仕事に達成感を持ってモチベーションを上げてやっていくかそうでないかは、上下の違いになります。

 自分を高めることは、ライフプランの充実に直結するのです。
登録:2011-09-18 10:50:04
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