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コラム
第183話:人材育成で最も重要なあるべき姿、ゴールの設定、活用の仕組みとは
 エンタープライズ系のスキル標準として位置づくITSSとUISSですが、ここ数年大きな改訂はされず、IPAの活動としては活用の促進をメインテーマに進んできました。一方、お伝えしてきたように新共通キャリア・スキルフレームワークのコンセプトが発表され、6月から内容の説明、およびその使い方をセミナー形式で全国行脚してきました。
 ITサービス企業とユーザー企業という立場こそ違いますが、導入手順や定義内容など共通点が数多くあります。その視点がコンセプトの根幹をなしています。企業にはビジネス目標があり、その達成を担う人材を育成していくことが、人材育成のあるべき姿ですが、そのゴールとなる人材モデルを策定し、社員が理解できるように提示していく必要があります。
企業導入に当り、シンプルに考えること
 以前からスキル標準に関っている方々は、考え方やポリシーにこだわる傾向があると見ています。たとえばITSSで言うと、「重要なのはキャリアであり、達成度指標でレベルが決まる」などという話です。ここで言っていることを言い換えると、過去の経験によりその人の価値を決めるということになります。

 筆者は、長年策定と活用の両方に深く関与しているので、ITSSでの考え方を十分に理解できますが、多くの方々は基本思想としてではなく、表面的にしかとらえていないことが多いと言えます。また、その基本思想自体も、一般論で言うと必ずしもそうとは言い切れないと思っています。
 まず、「キャリア」の定義が明確にされていません。また、ITの進化は、過去の技術や考え方を否定するケースもかなりあり、経験が足かせになることも実感しています。技術エリアが多岐にわたり、急速に進化している現在は、「コーディング→プログラム設計→システム設計→プロジェクトマネージャ」という積み上げの図式だけでは成り立たないことが多いことも特徴です。

 ITSSやUISSを企業導入する場合は、まずは企業目標に合った人材モデルを策定する事から入り、その内容はスキルセットとして表現する方法が最も理解しやすいものです。その時点で、評価、つまり達成度の話をしても混乱するだけ、というのが実態です。PDCAサイクルを考えても、Planから入るわけで、あるべき人材モデルと現状とのギャップからの計画立案から進めるべきで、評価から入るのは理にかなっていません。
現場では無理なことを、作り手的な押し付けをするほうがマイナスだと思っています。
人材モデルの定義
 企業の目標に合う人材モデルは、間単に言うと仕事をするためのITスキルと遂行力であるコンピテンシー(ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキル)で構成されます。

 ITSSのスキルは、スキル領域という分類形態でスキル定義項目群としてきちんと整理されています。また、UISSでも機能群のサブセットとして定義されています。
このスキル定義を使用して、ツールやテストでエンジニアのスキル習熟度を評価することは可能です。

 このスキル定義項目は、誰が見ても同じ内容で理解ができないとまずいと考えています。
 ITSSリリース直後に経済産業省主催で「スキル評価ガイドライン策定委員会」が開催され、筆者も委員として参加しましたが、その中で1つのスキルに対して4つのランクをつけるという方向性が一致した考えとなりました。4つのランクとは以下の通りです。

・ランク1:知識を持っている。
・ランク2:実施可能であるが上級者の支援が必要である。
・ランク3:独力で実施可能である。
・ランク4:後進の指導が可能である。

 この考えがUISSにも取り入れられているわけです。
 定義自体で習熟度を表現するのではなく、誰でもわかるように定義された1つのスキル項目を4段階の習熟度で組み合わせて表現するということです。
汎用的であり分かりやすいのですが、これでも理解に個人差があるのではないかという意見もあります。その場合は、以下のように定義することも効果的でしょう。

・ランク1:トレーニングなども受け、実施における準備は整っているが、実施の経験が無い。
 本で見たりしてキーワードとして知っているのは対象外ということです。
・ランク2:既に上級者について実施の経験はあるし、独力でもできると判断しているが、その経験が無い。
・ランク3:独力で実施でき、後進指導もできると考えられるが、育成プランを考えたり、正式に指導した経験が無い。
・ランク4:十分に実践の経験もあり、育成プラン策定も含めた後進の指導の経験がある。

 新モデルでは、タスクごとにこれらのスキル定義がサブセットとして設定されています。
 では、もう一方のコンピテンシー(ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキル)はどうでしょうか。
 ITSSでは、ヒューマンスキルとして、「コミュニケーション」、「ネゴシエーション」、「リーダーシップ」の3つが、相当すると思われますが、中身はというと教科書通りの言葉が並んでおり、数も少ない状態です。これは、最低限必要なものだけを定義してあると解釈するのが妥当でしょう。

 しかしながら、標準化・共通化されたスキル定義と、最低限のコンピテンシーでは、企業目標に合った「人材モデル」を表現するのは困難です。特にヒューマンスキル系の表現は大変重要で、企業や個人におけるモデルとしては、ここでしか特色を持った表現ができないのです。
 ヒューマンスキルも、共通化、段階付けができないことはありませんが、そうすると企業の人材モデルとしての特色が出せないのです。
 たしかに、共通化できる部分はあると思いますので、その部分はやるべきだとは思いますが、特色を出すべき「肝」の部分は共通化してはならない、ということです。それにあった表現を独自に作り出す必要があります。

 また先のスキル定義のようにタスクにはセットできるものではなく、企業の考えが入った人材モデルごとに設定しなければならないので、要注意です。
実績評価と人材モデル
 次に、それらスキルを使って仕事をした成果、貢献度に対する評価が必要になってくることになります。
 これは、業務経歴書などに書かれている内容をどうすれば評価できるかということと同様です。ツールやテストで評価するのは難しく、さらに、上位レベルについては第3者として能力のあるアセッサーが評価するのが適切でしょう。年2回上司と部下が面談するなど人事評価のプロセスと同様の考え、またはその中に組み込んで実施するのが妥当です。

 人材モデルは、ITスキルとコンピテンシーのセットで表現し、スキル管理システムの仕組みによって継続して維持管理ができ、その内容で評価が可能です。企業導入する場合は、第1ステップ(導入ステップ)としてこの仕組みづくりを考えていくのが効率的・効果的です。

 評価に直結する実績評価は、そのスキル管理を含めた仕組みをデザインし、その中で評価するのが妥当だと考えています。
 ここで仕組みというのは、アセッサーのスキルと経験を持った方が、インタビューをして実績や成果を評価するというプロセスや体制を持つということです。
登録:2011-09-16 17:11:06
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