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コラム
第106話:ITSS V3、UISSの方向性と情報処理試験との関係
 ITSS V2発表時のIPAの説明では、ITSSは毎年3月と10月にマイナーも含めたバージョンアップを継続するということでした。また、並行して産業構造審議会・人材育成ワーキンググループのアウトプットとして、情報処理試験と各スキル標準の関係、及び統合キャリアスキルフレームワークなるものの考察が提示されています。しかし、10月にはITSSの新版の発表は無いようですし、統合フレームワークの方はあまり話題に上がってきません。一方で情報処理試験に関しては、来年春に向けて着々と準備が進んでいることをご存知の方も多いと思います。
ITSS V2_2006の次は?
 ITSSの最新版はITSS V2_2006で、使いやすくなったV2にさらにITSM(IT Service Management)の考えがプラスされ、システム構築一辺倒の定義体から運用周りに大きく踏み込んでいます。この改善で、さらに使いやすくなったと感じている方は多いでしょう。大方の予想では、その次の改良版はITSS V2_2007として、この10月に出てくると考えられていました。ところが正式なアナウンスはされていませんが、もう来週から11月ということで、結果として今回は見送りになり、次のターゲットは来年3月のITSS V3ということになるでしょう。様々な理由が考えられますが、一番大きな原因として、先ごろ発表された産業構造審議会・人材育成ワーキンググループのレポートへの対応などによるものと推察されます。
(10月のITSS V2_2006のスキップは、10月31日IPAからのニュースリリースの中で発表されました。最下部の参考ページ参照)
 
産業構造審議会・人材育成ワーキンググループのアウトプット
 WGは、昨年スタートして今年の7月20日で終了していますが、アウトプットは情報処理試験が主役であり、3つのスキル標準とどう関係付けるか、またそのために統合フレームワークがインターフェースになっているという印象でした。当初は色々な議論の目標があり、実際に議論されていましたが、結果として収まるところに収まったということだと思っています(下記参考ページ)。
 ただし、筆者は統合フレームワークに違和感を持っていました。同じエンタープライズで括れるITSSとUISSだからといって、キャリアフレームワークを統合する意味が分からなかったのです。1つのIT業界で活用するITSSだからキャリアフレームワークを共通化できますが、製造、流通、製薬、流通など挙げればきりがない複数の業界の中のユーザー企業の、しかもその中の1部門であるIT部門が活用するUISSは、共通化しても意味がありません。ビジネスモデルも目標も位置づけもすべて異なるからです。ですからUISSの活用手順は、何かに合わすのではなく自社のものを策定することになっているわけです。同じくエンタープライズではないETSSを統合しても、どう活用していいかさっぱり分かりません。
 時間をかけて統合フレームワークを見ていると、疑問が解けました。この統合フレームワークは高度IT人材を育成することに効果を発揮するのです。もっと分かりやすく言うと、情報処理試験の資格をどういう順序で取得していけば、スキルが上がり高度IT人材に近づくことができるのかという道筋を明確にしているのです。そのために、3つのスキル標準すべてがそのベースになければ意味がないので、統合した上で情報処理試験の資格を職種・専門分野と関連付けているわけです。つまり、統合フレームワークそのものは、IT業界の高度IT人材育成のための枠組みであって、企業内でキャリアパス策定や人材育成のために、直接的に活用するものではないということです。
 別の観点で続けますと、今まで通りIT業界ではITSSキャリアフレームワークを活用して人材を育成し、ユーザ企業はUISSを活用して自社のモデルを策定し、組織のあるべき姿や人材育成を進めるということに変わりはありません。使い分けが必要です。
情報処理試験とスキル標準
クリックすると拡大  情報処理試験の策定に関わったことのある方は、優秀なエンジニアが苦労して進めており、いかにそのプロセスや内容が世界に誇れる素晴しいものかということをご存知でしょう。筆者は、CAITの時代のデータベーススペシャリスト試験のカリキュラム委員をしていましたが、あまりの密度の濃さと質の高さに驚きました。
 また、IT系の企業においても、合格した際には一時金を出すことや、手当てとして給料に加算することで、会社を挙げて社員の資格取得を奨励してきました。取得者数がその企業のバリューを示すものとしても、頻繁に取り上げられていました。その状況で、当初は情報処理試験とは関係のない位置づけでITSSがリリースされたのですから、企業側はあわてて試験とITSSとの関係を国側に厳しく問い詰めたのです。
 そのような経緯もあり、先ほども書いたように「収まるところに収まった」と感じたわけです。試験とスキル標準の双方が歩み寄り、高度IT人材育成をメインテーマに、統合フレームワークが作成され、3つのスキル標準をベースに試験自体も再構成が進んでいます。
 IPAから「情報処理試験の手引き(案)」という資料が出ています(下記参考ページ)。冊子にもなって誰でも入手できるようになっています。その内容を簡単にまとめると次のようになります。

・情報処理試験は統合フレームワークの1〜4レベルに位置付く
・レベル1〜3は職種の区分は設けない前提
 レベル1には、エントリ試験が1対1で位置付く
 レベル2には、基本情報技術者試験が1対1で位置付く
 レベル3には、応用情報技術者試験が1対1で位置付く
・レベル4には、職種と専門試験がほぼ1対1で位置付く
 ITアーキテクト:システムアーキテクト試験など
メリット、デメリット、課題
 情報処理試験が各レベルに位置付くことによって、非常に分かりやすくなります。しかしその反面、今までITSSで提示してきたレベル観、特にレベル1〜3が少し下にズレた感じがします。ご存知のようにレベル3は、何でも独力で実施できるという定義ですが、企業で言うとかなり優秀なエンジニアでもこの位置になってしまいます。ということは、応用情報技術者試験に合格すればレベル3なので、少し下振れしたように感じるわけです。
 しかし、筆者はこのことをあまり障害とは思ってていません。ITSS自体がこれから成熟していくモデルであり、状況に合わせた改変はあってしかるべきだと考えるからです。それよりも分かりやすくする方が、ずっと重要だと思います。ITSSが世に出て5年近くになりますが、未だにこの普及状況というのは、構造の良さからくる分かりにくさなどが大きく影響していると思っています。そのことを解消するには、説明しなくとも理解ができるほどの分かりやすさが必要だと思います。
 ただし、情報処理試験とスキル標準の関係で、1つだけ解消しておかないといけないと思っているのは、レベル3と応用技術者試験の位置づけが、職種単位となっていないところをどのように説明していくかということです。今までの考えですと、独力で何でもできるある職種のレベル3のエンジニアは、少なくともプロフェッショナルと呼べると思います。そこを職種なしの単なるレベル3と試験が対応というのが、レベル観の変更や職種などの考え方の整理をして、活用側にしっかり理解させないと、単純に「もう使えない」となりかねません。
 この点は、必ずクリアしなければならない課題ではありますが、それを乗り越えることができれば、スキル標準はさらに活用しやすいものとして定着していくに違いありません。
▲▽ 関連サイト ▲▽
産構審・人材育成WGレポート
新・情報処理試験の手引き(案)
ITスキル標準センター ITSS V3改定方針10月31日ニュースリリース
登録:2011-01-30 15:56:10
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