スキルスタンダード研究所は、各業界へのスキル標準の活用・推進、プロフェッショナル人材育成に向けたコンサルティングサービスを提供します。
ITスキルスタンダード研究所
スキルスタンダード研究所についてニュースサービスドキュメントコラムお問い合わせ
コラム
第104話:人材育成と企業の姿  〜UISS、ITSSとの関係
 先日、ある製造系企業のIT部門からお呼びがかかり、部門員の方々向けに講演してきました。聴講された多くの皆さんは、長い時間にわたって真剣に、そして食い入るように筆者の話に耳を傾けられました。そこに、口では言い表せない不安や、どうしようもない切迫間を感じたのでした...。
ユーザー企業IT部門の置かれている状況
 筆者は、人材育成の仕組みづくりのコンサルティングをしていますが、仕組みづくりを推進する方だけではなく、できる限り経営層や現場の社員の方々ともお話しする機会を持つように心がけています。また、今回のように筆者の経験実績を買われて、社外の状況を聞きたいと言われる企業も数多くあります。もちろん講演することはメインビジネスではありませんが、時間の許す限りお応えするようにしています。なぜなら、IT部門の方々は、外部と接する機会が少なく、常に情報不足、刺激不足の状態であることを理解しており、筆者の話が役立つことを心得ているからです。
 ユーザー企業のIT部門は、仕事以外に色々な意味で難しい側面を抱えています。たとえば次のような事柄です。

・社内的に、IT部門の位置づけはコストセンターであり、しかもIT化費用やシステム運用費など多くの経費を使うやっかいな部門であると思われている。近年、システムの構造が複雑になり、ますます手がかかる傾向が強いが、人件費などを押さえられることになっており、部門員の多忙さは激しくなり限界に近づいている。これらに対して、特に経営層の理解不足が顕著である。
・IT部門員の多くは、IT系の仕事がしたくて入社したわけではなく、たまたま配属された上に、仕事柄異動が難しく長くIT部門に属している状態である。
・IT部門員の処遇について、全社のものに合わせるのが難しく、情報子会社化を検討したり、実施している企業が多い。多くは本体からの出向になるが、将来の見通しが立ちにくく、社員としての位置づけが中途半端になっている場合も多い。
・IT部門の仕事自体が、他の部門から見てうまく出来ていて当たり前で、少しでもシステム障害など不具合を起こそうものなら、激しく非難される立場になっている。

過去の成功と、行き止まり感の強い現在 〜シニア層、ミドル層、エントリ層
 IT部門を構成される方々は、3つの大きな群に分かれるのではないかと考えています。
 一番目を、仮にシニア層と呼びましょう。シニア層は、IT部門長を含め管理職でも年齢が上で、大抵は自らの経験に自信を持っている方々です。IT創成期は、メインフレームを使って人の行っている仕事をコンピュータ化するだけで、かなりの効率アップを実現することができました。また、それが一番大きな目的でもあったのです。技術的にも今ほどの広がりはなく、一人で何役もこなすことが可能でした。従って、全体を見渡すことができたわけです。しかも、IT関係の仕事をしている人はまだまだ少なく、花形といわれる中での達成感のある生産的な仕事をこなしていました。
 二番目をミドル層と呼ぶと、そこにはシニア層の方々に、どちらかというと師匠と丁稚の関係で鍛えられた方々が存在します。技術的にも広さと深さが増して、とてもシニア層の方のような経験は出来ませんが、想像することも含めて前向きに捉えた仕事の仕方ができましたが、新しい技術が頻出するようになってついて行きづらくなり、管理職の方に偏っていく傾向にありました。シニア層の方々は役職者で、ミドル層も続く役職ですが、上のポジション数が限られていて、その位置に付けるかどうかという不安が徐々に頭をもたげてきました。役職が上がらないと給与が上がらない日本式の処遇制度が主流の真っ只中にいたわけです。そして景気後退で、一番のリストラ対象になったのは、記憶に新しいところです。自分の身を案じるのが精一杯で、部下の育成など考えることはできないわけです。
 三番目をエントリ層と呼びましょう。ここには、ITというキーワードを頼りに、過去の成功のイメージだけで参加した方々が多く存在します。現在は、技術的にも深く広くなっており、IT戦略が企業にとって生死を分ける位置づけにもなっています。そのような中でいくら多くを経験したくとも、一人の人間が出来る範囲はおのずと限られてしまいます。つまり、経験を重ねて今の位置づけになったシニア層、もしくは多くを経験できなくとも、何らかの役職についているミドル層とは、かなり落差のある位置づけです。しかも、シニア層ほど広い経験を持たない、言うなれば経験実績の面では中途半端なミドル層に指導され、かなり中途半端さが増幅されたようになっているといっても過言ではないでしょう。
絡み合った不安
 この三つの構造の中で、シニア層の方は自分の経験や実力と比較して、ミドル層以下の方々について、「いつも待ちになっていて自主性がない、文句だけ言って建設的でない、自分が若いころは上を押しのけてでもやったものだ」と言われます。ミドル層の方々は、自分の立場を守ることと、上と下を見てなるべく「事なかれ主義」に徹するという傾向があります。それに対して、エントリ層の方々は、企業の考え方の変化や技術の進歩についていけず、実際にどうしていいか分からないのが実情でしょう。会社が明確に何かを提供してくれるわけでもなく、考えるための環境を提供してくれるわけでもありません。 一方で、ここ数年自殺者やうつ病の方が急増しています。IT関係も例外ではありません。私の感覚では、逆に顕著に思えます。それぞれ理由は違うのでしょうが、ミドル層とエントリ層の方々がその大半を占めるようです。よく言われるIT関係職の低い待遇や勤務時間の多さに、さらにこれらの現象が追い討ちをかけて、IT関係に対する学生の人気は急激な落ち込みを示し、好景気と逆行して深刻な人材不足に陥っています。
 これらの状況の中で人材に関して考えると、IT関係特有の現象が出ていると言えるかもしれません。過去はもてはやされたIT関係職の栄枯盛衰が、まともに現れているようです。
客観視の重要性
 今回の講演に話を戻します。講演に際して、筆者は事前に詳しく社内事情を聞いたわけではありません。逆に聞きすぎると偏った話になる可能性が高いので、あえて必要最低限しか聞かないようにしています。また、講演を聞いている皆さんにとって、UISSやITSSもほとんど関係ないのです。先にあげた状況の中で、

「一体自分の将来はどうなるのか、何を考えどう実行していけばいいのか」

ということが、一番の不安の材料であり、最も知りたい答えなのです。
その証拠に、一番真剣に身を乗り出すような反応があったのは、UISSやITSSの説明ではなく、次の内容を話したときでした。

・企業の魅力とは
 −Visionや理念、戦略の共感
 −会社の基盤に対する安心
 −事業内容への興味
 −仕事の醍醐味
 −組織風土との合致度
 −人的な魅力
 −施設や環境
 −制度や待遇への納得感

・上司の魅力とは
   −情報提供
   −情報収集
   −判断行動
   −動機形成、助言

・職場の魅力とは
   −顧客接続(接点、反応確認)
   −目標達成
   −意欲相乗
   −業務効果(効果的な業務プロセス、効果の追求)

 自分の周りの環境は、これらの中でどのくらいの感触なのか、また、自分は何に魅力を感じて今この会社で働いているかを客観視することは、今後を考える上で大変重要です。自分の置かれている状況、また自分自身を客観的に捉えることができなければ、将来を見据えるどころか不安を拭い去ることは出来ません。自らの人生設計をよりよいものとしていくには、しっかりと現状を見つめることも重要でしょう。
登録:2011-01-30 15:55:40
 サイトの利用について | プライバシーポリシー | 情報資産管理方針 |
トップページへ戻る